生活

 喜怒哀楽、感情は麻薬で、一度覚えてしまったら体がまた求めてしまう。何かが足りない。その何かを知っているから私は求めてしまう。大人になったからって涙腺は緩んで、なんてこともないのに涙が出るから、焼き付けておきたいものともきちんと向き合えない。また笑い合いたかったのに、また泣いてばかりだ。好きなのにずっと、泣いてばかりだ。伝えたかったのに、声なんて出せない。愛してるのに、愛がわからない。

 痛みは悲しみで、無意識に求めてしまう。追いかけているのが、哀しみか喜びかも今ではわからない。髪の毛の一本さえも捨てられなかったのは、大切だったからじゃなくて悔しかったから。証拠を残してやりたかったから。あの目が忘れられないのは、大嫌いだったから。覗く銀歯がなくなった日から急に優しくなった理由にも気付かないままでいたかった。職人が空けたジーンズの穴も歪に縫って塞いでやりたかった。私の涙が零れないように必ず拭いて止めるのが愛や優しさであればよかった。でもそんな訳ないから、いつまでもずっと憎んであげようと思ってたのに。好きではいられなくなった日からずっと、嫌いを数えて生きてきた。好きでいられないなら嫌いで居続けたかった。

 こんな私でも全部やり直せてしまえ。もう泣きたくなんてないのに不意に零れるなんて不憫。

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