筆者へ

 本を読んでいると、言葉が頭に入った瞬間に消えてしまうときがある。スラスラと読んだのに、目から脳に移動した途端に、それはもう自分とは関わりのないものみたいに。

 それとは逆に、声に出して落としたはずの言葉が頭にこびりついて離れないこともある。これらは書き手の感覚と自分のそれとの相性に起因したり、自分のご機嫌に左右されたりする。

 あなたの書く文章があまりにも好きだから何度も何度も読み返して本だってしわくちゃになったのに、それなのにもう夜になると何も思い出せない。好きだった登場人物の台詞も、女の友人の名前も。それでも覚えている確かなことはあなたの拘りの文章ではなく、私が好きだと思った感情と感覚だった。なんだか物凄く鬱陶しくてどうしようもなくって申し訳ない。あなたの書く文章は私によく似合う。

 好きだから、どんな顔をしてどんな声で喋るのか、私は知りたいと思っています。いつかどこかでお会いしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?