一夜

 迷惑メールにももう飽きて捨てられた。好きな人からのメッセージはどうでもいい公式アカウントの広告に追いやられてしまった。残ったのは体の痛みだけだ。早々に消えたあなたの体温とは裏腹に、重なった分の痛みだけは消えずに残る。たまに布団からふわっとする匂いが、あなたの匂いなのか自分の匂いなのかも、今となっては確かめられない。

 満たされていた。確かに私はついさっきまで、この上なく充たされていた。それなのに、また、足りないと思う。ただ足りないと思いたいだけ。それだけのどうしようもない理由で、全然まだまだ足りないと思う。排水溝に絡まった長い毛は私の髪で、そこにも残ってくれないのがあなただ。私が揶揄っても、怒ってはくれないのがあなただ。夜だから、少し話したくなっただけ。会っていないときは大嫌いで言いたいことばかりなのに、会うと愛おしくて何も言えなくなる。それだけの関係がなくならない保証なんてどこにもないからまた泣いたけど、本当は信じてみたいんだよ。

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