生粋

 耳を澄ましたら聞こえたの。それなのに見回してもなにもないから、もしかして自分の声だったのかな。って、随分と昔に失ったままなのにそう思った。でもやっぱり私のなかにも見当たらなかったわ。

 だから、もしかしてあなただったのかな。って。そう思って手紙を書いています。全然上手に書けないけど。あなただったらいいなと思ったから、手紙を書いています。

 でも、あなたにこれを送ることはきっとありません。だって宛て先がわからないから。不憫というか、情けないというか、仕方ないくらいに愚直だったとか。

 いつかのヒットソングの歌詞が誰かの脳内で空中分解されて、どこかの浜辺に打ち上げられる。そんな景色が目前に浮かぶ。瓶に詰まったあなたを拾う。それでも菌は持ち込めないから、発酵食品にお手合せをば。

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