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籠城と慕情

 私のことを好きだと言っていた彼女にも私よりもっと大事なものができてそれが裏切りだとも思えないから寂しくて悲しい。彼女のせいにできていたり、他人のせいにできていたら、もっと誰かを憎んで楽に生きられたのに。いつだって不甲斐ないのは自分で、足りないのも自分だから死にきれない。煮え切らない態度を取っても捨てきれなくて、ごみ捨て場から連れて帰るのを見られたくないから袋ごと持って帰って、一度は出したはずのごみで部屋は溢れかえっている。立場とか状況とかを気にしていた訳じゃなくて、気にしていたのは私が私でしかないこととか、私が私であることとかそういうことだけだった。愛とか恋とかには興味がないふりをして、腰だけ振ってよがっておけばいいんでしょって教科書通りに。あんたなんかに愛されても無駄だから。って、愛されたこともないくせして生意気で、それでいてそれ以上に強情で。それなのに誰よりも薄情で、白状した男の首は切ることさえせずに生のまま放置。好きだったのに。なんて言ってみたって目に温度は灯らなかったし、愛して?と頼んでみたって何一つとして得られなかった。初めて頑張って生きてみたらそれだけで涙が零れるようになった。別に苦しくなくても、痛くなくても、嬉しくなくても、何もなくても、ただ生きていたと実感するだけで涙が出て、そんな自分に嫌気がさした。それなのに泣き虫なあの人のことはいつだって好きだから、私は何になりたいのかわからない。好きだとか嫌いだとか気もちがいいだけの感情に逃げて、心は何もわかっていなくって、体はいつだって知ったふうに振る舞って、生きていたって無駄かもね。とか、誰にだって言えることが誰にも言えない。言えなかった。でも彼女に、言えるなら一度だけ、初めて言ってみたいと思った。あの人のことも聞いてほしいと思った。遠くに離れたようで寂しかったと伝えてみようと思った。だけど私のエゴは一秒ごとに煮詰まって灰汁が蔓延して穢いから、私は今日もぽつり部屋の毛布の中身になって、夢と愛のない音楽に逃げた。一生ここから出られなくていい。

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