私掬い

 水を手で掬うように私を不安から救った、あなたは今でも元気だろうか。不安を必死で消そうとする私に、頑張らなくていいんだよと笑ったり怒ったりしてくれた、あなたは今でもあの頃のままだろうか。あなたのまま在り続けているだろうか。

 私は相変わらず不安の中に浮かんでいるけど、ほんの偶に、空気が甘く感じるようになった。そういえば、空気に味があると知ったのもあなたのお陰だったね。私の吐いた息を吸うあなたを笑うと、あなたも笑顔になった。溜め息をついても嫌わないでいてくれたし、ちゃんとそれごと受けいれてくれた。あなたがつく溜め息は慣れていなくて産声みたいで、ベテランの私とは違ってとても愛らしかった。

 たくさん吐いたね。いっぱい溜めてたんだね。って、まるで勤しんでポイントを貯めたかのように褒めてくれたこともあった。私は、あなたをどれだけ褒めて何度笑いかけてあげられただろう。死にたい日にはいつもそばにいてくれたね。泣きたい夜は別の部屋で眠ってくれた。やっぱり私は今日も相変わらず死にたいけど、それよりほんの少しだけ多く、生きたいと願っているんだ。だからあなたにもう一度だけ伝えておきたいの。ありがとう。あと一言だけいいかな。またいつか。

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