妖怪命拾い

 時給10万円の仕事があると、初めに聞いたときには驚いたし、勿論、そんないい話はなかろうとも思った。国からの紹介だと言うから益々怪しい。資格や経験も要らないという。そんなムシのいいことがあるものか。タダより安いものはないのだ。僕はしっかりと断ったのに、話だけでもという。ノーリスクで10万円。これがもし誠なら、皆飛びついている頃だろう。僕に話が降ってくるなんておかしい。以前架空請求にやられそうになった僕ですら、それくらいのことはわかる。

 署名捺印、それだけでいいんです。そう言われた。どうやらそれだけで僕はお金を貰える、らしい。一体誰から、何のために?でも、一瞬、そんなことはどうだっていいと思った。これが個人情報収集の為の嘘でもいいと思った。これまで生きてきて自分に価値など感じたことがなかった、つい最近職を失ったこんな僕にも、価値があると、そう言ってもらえた気がした。振り込め詐欺の次は、振り込む詐欺か。少しは趣向を凝らしたな。なんて、少しは感心もしてやった。

 それで、ここからが本題なんだけど、もしかして僕、生きていても大丈夫だったりする?時給10万円、それが自給じゃなくたっていいのなら、持久走を続ける糧にしてやれる。そう、僕が僕に願う為の封書、投函でチェックメイト。

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