summer nude
「そういえば夏、来ないね」
綾子は梅雨空を見上げながら言った。
「そうね。どこを彷徨っているのかしら」
自分の口から出た言葉が意外で笑ってしまいそうになった。ここ数年飽きるほど耳にした異常気象という言葉。今回だってただのそれなのだろう。
「どこだろうね。ブレーメンとかじゃない?」
綾子は何故か楽しそうに言う。
「ブレーメン?彼の音楽隊でお馴染みの?」
「そう!ブレーメン!」
「ブレーメンってどこだっけ?ヨーロッパ?」
「そう!ドイツだよ」
「ねぇ、楽しそうだね。詳しいの?」
私が訊ねると待ってましたと鼻を鳴らして答える。
「そりゃあ私は雉だからね!」
「そう。ブレーメンに雉なんていたんだね。それとも、鬼退治の帰りに迷っちゃった?」
「そうだといいね、一石二鳥で」
そう言ってまた、空に目を戻した。綾子の頭の中を覗くときっと、マフラーを解いたときの毛糸みたいなのだろう。もしかしたらその毛糸は鳥の巣になって、雉を育むのかもしれない。
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