君試し

 あなたの向いた方が前。どこぞの詞にでもありそうな青くて臭い言葉で、脳内の奴に急に話しかけられた。前なんてない。あるのは東西南北、方角だけだ。そう返すと、ふふっと奴は笑った。まだそんな皮肉言う元気、ちゃんと残っていたんだな。奴は安堵の息を吐いた。皮肉じゃなくて事実だよ。奴にはバレないよう心のどこかでそう思った。

君の向いた方が前
君の歩いた道が後ろ
ずっと わからないことばかりでもいい
一緒に見つけに行こう
手を握るあの距離感が嫌いな君には
ただここにいるだけの僕が
ついているから 大丈夫そう
君は生きているだけで君だから
だけど税金も家賃も払うのが義務なんだってね
大変だね皆そうでもやっぱり自分は偉い
君は偉い
お願いは一つだけ
どうしたって生きていて

僕の声が届かなくても
君が忘れてしまっても
僕はずっとおぼえているから大丈夫
君はなくならない
何をするのも億劫で泣きそうで吐きそうでも
ただ君がここにいることが
価値なんだよ 子どものころと同じ
仕事も勉強も愛想笑いも相槌も
捨ててしまってもいいすべて放棄して休んでも
いいんだよってそんな単純な話じゃないでしょう?うんでもそれでも
君は偉い
絶対は一つだけ
自分を殺したらダメだ

自分の描いた物語の世界で泣きながら走ったら
虹がかかる ほら君が見上げたなら
虹は綺麗なまま君を見下ろす
君が見上げるだけでそこに空はある
だから 夜は安心して眠ってもいい
朝は怖がらずに起きたっていい

死なないでねどこか知らないところで
生きていこう僕と同じように

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