恐怖と快楽を繰り返す生(映画:性の劇薬のレビューのようなもの。ネタバレあり)

 性の劇薬という映画がある。ビジュアルをみたときから気になってはいたのだが、映画館で観ることはなかった。その映画が今、動画のサブスクリプションサービスで観られるようになっている。観た。

 表題から匂うように、本作は18禁指定映画だ。原作は所謂BL、男性の同性愛がテーマの漫画、というジャンルに属する。だが、原作も映画も、BL(コミック)という枠組みだけには収まらない特徴的なストーリーや、それを成立させる台詞がとても印象深い。私は実写版である映画を観てから原作コミックを読んだ。実写映画には、原作のキーマンの代わりとなるオリジナルキャラクターが登場するなど、原作とは少し違ったストーリー展開がある。原作ありきの映画なのは言うまでもないが、喜ばしくも、映画と原作のそれぞれに特有の魅力、疼きがある。どちらも非常に面白い。というのも、以下比較したい場面もあるので断った次第である。(と言いつつそんなに比べたりもせず。)

  映画は、主人公の男が全裸でベッドに拘束されている場面から始まる。その男、桂木は、目が覚めて自身の置かれている状況に気が付き、だが到底理解できず、ただただ素直に抵抗する。桂木が抵抗しているとそこに現れたのは、今の状況を作ったであろう、得体の知れない男だった。

「「理解しなくていい。あんたは与えられるもの全て、受け入れればいいだけ」」男はそう言って、俺(桂木)の体を弄んだ。

俺が起きると男は、「俺はあんたを殺さない。命を救うのが俺の仕事だ」という意味深な台詞を吐いて、この檻の外へ消えた。

それからも目覚める度、執拗な調教が繰り返された。死にたかったのに生きている俺は自分の力では死ねなくて、憎いはずの男を殺すことさえできない。(俺のせいで何もかも全てなくなったのに、どうしてあんな男なんかに。)

「何でだ。何故命がこぼれる」どうせ死んでもいい俺なんかにヨガり狂って
「死にたいんじゃなかったのか」生きようと
「俺がこんな身体にしたって言いたいのか」生きようとしている
ああ、あんた堪らなく、

桂木を監禁した男、余田龍二。調教し続けてきた彼自身が桂木を犯すそのときに、彼は笑っていた。その様は狂気の沙汰で、笑う程に苦しい。それを与えられ受けいれる桂木の情動。生の情動。苦しい、痛い。だけどそれ以上に。苦しい、苦い、だけど。

私はそれをみている。痛い。その痛みは口いっぱいに拡がって、食道を締めつける。そして内臓までをも疼かせる。激しい程に苦しい。感情と感覚が入り混じる。痛めつけているはずの彼が苦しい。

 笑いながら俺を犯した男は、まるで俺よりも苦しいみたいに腰を振った。
こんな身体にしたくせに、あの男は俺を犯し終えた途端に枷を外した。一体、一体あいつはなんなんだ。くそ。あいつ、あいつは一体。

服を着て檻から出るとそこは俺の知っている病院だった。あの男は白衣を着ていた。「俺にしたこと訴えたら、あんたの人生終わるな」そう言うと男は、「終わらせてくれるのか?」と俺に言った。ああ、くそ。まただ。また。

 余田龍二は、ラーメンにがっついて噎せる桂木誠をじっと見つめていた。自分の器を桂木に差し出す。食べるということ。生きているから食べる。食べて生きる。それだけのこと。それだけの。 

 この男は、いや、余田龍二は、俺のことを前から知っていた。ずっと俺を見ていた?

 「前、ちゃんと見て運転しろ。事故ったらどうする」桂木が余田にそう言うと、余田は少し笑って頷いた。

「ヘンタイだよ。それだけだ」余田は桂木を監禁・調教した自分のことをそう言った。生への執着という性癖。そういうクセ。生のヘンタイ。余田龍二という男は、私にそう映った。

 「俺の好きにしていいんだろ?あんたの命、俺に寄こせ」
桂木はそう言って、余田を死の淵から生の淵へ引き寄せた。それは桂木から余田への最大の仕返しであり、枷を失った桂木が自ら選んだ行き場所だった。

 余田は彼を抱き締めた桂木に優しくキスをした。お互いの身体をもう知ってしまっている彼ら。そんな二人が初めて愛し合う姿は、苦しくて美しくて儚くて切実だ。初めてちゃんと重なる今日。あの日々の延長線上にある今。

「好きにしろ、お前のものだ」余田は桂木に言った。身体二つで求め合う、それなのになんだかヤケに人間的でもある。

 今度は、今度は、俺が。俺が、お前を。お前が無理やりそうしたように。

「「あいつじゃない。俺は桂木誠だ」」

 生はやっぱり苦しい。でもだから偶に、偶にどうしようもなく。
性、生への執着が人一倍強い彼と彼。二人の色濃い物語。この物語は、性の物語である。かくして正しく、生の物語である。今夜も二人の依存と執着は美しい音色で鳴っているだろうか。彼と彼、生きているだろうか。

 彼らを生み出した原作者に、彼らの物語を生にした映画関係者に生を込めて。

 あー、Blu-ray買お。



 



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