息つまるところ

 胸がぎゅっとする。それは誰かを愛おしく思ったときの締めつけに似ているけど少し違う。どうやら病気でもないらしい。私はこんなに苦しいのに、これからも生きていかなければならない。半年前に治療した歯が、そのせいで軽く痛む。でももうどうだっていい。歯が治った喜びも全部私から奪い去るこんな世界なんてうっかり消えてしまえばいい。

 そうするといつかのあなたも消える?そう呟いても答えは聞けない。私が生きている今が過去になっていつか死んでも、今がなくなることなんてない。そうだそんなことずっと昔から、一生知ってたそれなのに。あなたのあの日々の悲しみを尚思い出しては憂う、私も悪かったのにね。ずっとあなたに手を伸ばせずに、触れることさえできなかった。あの日のあなたの苦しみが消えるなら、もしこの苦しみがその代償なら、私も満足したんだけどね。そんな都合のいい話ある訳ないから、吐きそうで泣きそうで寝られなくて朝が来る。

 夕方ゲームばかりして、疲れてそのまま眠ったせいでしょ?って、私は真実を知っているから憎い。あの日買い込んだ本だってまだ読んでいる途中なのに。なんて、お前に言われなくてもさ。

 誰かの落とした不幸を拾って磨いてみたけど幸せにはならない。誰かの忘れていった幸せを鼻からたっぷり吸い込んだけど、咳き込むだけで面白くもない。私の零した溜め息は今どこでどうしているだろう。あなたは不幸の塊なんかじゃなくて、甘い蜜の欠片なのよ。

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