憧憬

 あの時のように、今まで殆ど知りもしなかった相手に対して熱く拳を掲げる瞬間は、特に私みたいな生き方をしている人間にとっては、滅多にあることではない。私をそうさせたのは、彼の泥臭さである。汗が混じりツンと匂う土を共に握って泥だらけになって、夢中で遊んだのを憶えている。あれは初夏の夕方だった。あの日から私たちは友となった。そしていづれ訪れたろう決別を畏れ、拒み続けるのだった。背後では風がざわめいている。画面に彼の息の根が映える。

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