昼数え

 あなたの匂いがして吸い寄せられて、舐めてみたらあなたじゃなかった。私はただ空気を舐めていたらしい。寂しくなるべきだと思った。それなのになんだか嬉しくなっちゃった。無からあなたを生み出してしまう自分のこと、あなたのことのように、愛おしく思えた。

 私が吸い寄せられて舐めた空気は、とても恥ずかしそうに笑う。ふふっと照れて、それこそ、まるであなたのよう。私もふふっと笑ったら、風になって頬を撫でる。もしかしたら、この風はやっぱり、あなたなのかもしれない。もう私にさわれなくなった。そう思い込んだあなたなのかもしれない。私に似ているのに似つかない、あなたの声の温度だったから。だからもしかしたら。

 ねぇ、どうしても、会いたいのに会えないときはね。夜を数えて?そうしたらそれは知らぬ間に、朝を数えていることにもなるの。さわれない幸福でも幸には変わりないから、撫でられない頬の温度は自分で確かめるわ。だから、またいつかの日には。きっとふたりきりで。朝を確かめて昼を数えよう。泣いた日の数だけ笑い合えるように。日々を誓う。

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