序章的小節

 わたしはその変態小説に、顔を掻いたせいで微かに性分泌液のような臭いのする指を擦り付けた。作者に移した私の臭いが次の新刊のサイン会で私に返ってくるまでの間に、一体私に幾つの幸福が訪れるだろう。
もし、あの小説に出てくるような女が私の生活に介入してきたらと、考えただけでも悍ましい。私の今以上の不幸は保証される。そしてそれと同時に、つまらないこの日々に面白みが発生するのだと、妄想に口元が緩む。

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