私はあなたの体温しか知らない

 真っ白な部屋にふたりきり、閉じ込められて、殆ど口を利くこともなくて、でもずっと背中合わせで座っていたから体温はよく知ってるみたいな、そんな関係だった。趣味も名前も生い立ちも、何も知らなくて共通言語ももたないけど、何か悪いことを目論む手立てもないけど、果てしない共犯関係にあるみたいな。そんな関係。

 好きとか嫌いより手前の、得手不得手よりずっと先の、どこかで待ち合わせしていた。来ると信じて待っていた。お互い追いかけることをしなければ、どこかで会えると思ってた。

泣いても声は出なくて、涙も気持ちほどは出なくて、辛いのかそうではない何かなのか私にはわからなくて、それでも嫌いにはなれない。胸の奥で嘔吐く、ずっと痛い。痛みがあるということで生を実感する。少し笑う。幸福さえ感じる。

 手が少し震えて、呼吸は小刻みで、夜は眠れなくて、起きるのはとても辛い。生きているのだなぁと思う。ボロボロでも、健康でも、時を刻んでいる限りは時計として認められるのだなとか、そんなことで紛らわす。

 血が滲む。舐める。濃い味がする。血が滲む、舐める、甘い、痛い。その繰り返しが、今日だった。そして昨日でもあり、明後日でもある気がした。そんなに悪くないなと思った。でもそれも嘘かもしれないな、そうも思った。

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