間隙

 昨夜、舞台を観に行った。思えば学校の芸術鑑賞のような行事以外で、つまりは自主的に、舞台を観たのは初めてだった。

 キャストへの興味から観劇に行ったということもあり、あまり内容を把握せず臨んだのだが、何も起こらない話だった。もっと激情的な話だと勝手に思っていた。こう言うとつまらなかったように聞こえるかもしれないがそうではない。私は何も起こらない話が結構好きだ。小説や映画やドラマでも。

 何も起こらない話というのは個人的な語彙や常識の範疇での語りとなり申し訳ない。勿論、物語を細分化すると何かしらは起こっている。だが、だからどうなる、どうなったという着地が劇的なバッドエンドだったり、壮大なハッピーエンドだったりはしない話だった。

例えば自分がその環境下に産まれ生きていたら、登場人物の彼や彼女のように生きていたかもしれないというリアリティがあった。それは舞台という形式だからこそ色濃く表現できたのだろう。

役者の息づかいと言ってしまえばそうも言えるがそれだけではない。現実はフィクションに比べると圧倒的に不謹慎が少ない。大変な状況で生活していてもくだらない冗談に笑うし、シリアスなシーンであってもそうだ。反対に、悪意のない他人の一言に泣いてしまうことだってある。

 それでも人を殺したり誰かに殺されたりなんてしない。中途半端に何かを憎んだり誰かに強く当たってしまったり、どうしようもない災難に怒りの行き場をなくしたり。私たちが生きているうえで抱えているかれこれを登場人物たちも抱えていて、生きづらさを感じつつも毎日を生きる。そうして日々は、物語は(舞台の幕が下りても)、止まることなく進むのだ。物語に終わりがくるなんて有り難い迷惑。歯車である私たちだから。

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