ストッキング

 網タイツが伝線すると穴が広がると教えてくれたのも彼女だった。彼女の体温は普段はうんと低いのに、生理前の朝だけは異常に温かかった。

 別れた女のことを思い出すのは珍しい。今横に裸で寝ている女も別に悪くはない。悪くはないけど何か違うと思うのは、この女に彼女を探してしまっているからだ。体の相性も良いし料理も上手い。不満はないのに名前を呼べないのは、僕が何かに縋っているからだった。

 ねぇ、今、何考えてたの?っていつも聞かれる。そんなに僕は上の空なのだろうか。まぁ別にいいけど。と女は続ける。この女にとって、自分とはなんなのだろう。関係を問うような女々しい行動は取りたくないし、第一自分たちの関係が交際でもフレンズでもどちらだって構わない。真剣でないことだけは確かだから。抱きたいときに抱く相手くらい他にだっている。

 彼女のことを忘れられないのは、あの、髪の匂いが好きだったからだ。シャンプーや温度と湿度、それに少しの思惑の混じったあの匂いに毒されてしまった、あの日の自分に花を手向く。

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