読解欲

 賛美歌が聞こえた。夜空を覗き込むと、人間たちは歌い踊り狂っている。一体なんの騒ぎだろう。今日は多分、履き違えたクリスマスイヴでもハローウィンでもバレンタインデーでもない、ただの平日のはずだ。賛美歌の隙間から真新しい感じの曲が聴こえ始め、次第にそれは勢力を増して近づいてきた。人はそれらを神曲と呼んだ。こんなところまでうるさく鳴り響いたその音楽は僕の心には届かない。なのにそれを聴いて泣く子たちと同じように僕も泣いた。それは、僕には知り得ない感動が無数のどこかに嫌味なくらい存在していると気が付いたからだった。あんなのいつものことさ、気にするな。通りすがりの老父は少年に言った。おじいさんにもあんな時代があったの?と少年は尋ねる。老父は遠くを見ながら微笑んでいる。そんな彼に少年は自然と笑いかける。ああ、余所の平和なんて目に毒だ。永遠の誓いさえも数年で崩れてしまうように、彼らも覆うこの空も100年後にはなくなってしまえばいい。その頃には少なくともあの老父は生きちゃあいないだろうし。そんなこと気にかけたって孤独は収まらないから仕様がないな。あーあ嫌になっちゃうな。あああ、人間はいいな。こっちの気も知らないで。

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