百鬼夜行

 いつも体の奥のいちばん温かいところから聞こえる、この声だけが友だった。信じられるものなんてなにひとつない。自分さえ信じたくもない。他人という不確定要素に振り回され続けるのが人生だと気がついてから、楽になったのかもしれないけれど、しれないけれど。自分が自分を騙して記憶を捻じ曲げたり捏造したりするくらいだから、他人なんて存在からして嘘なのかもしれない。もういっそのことそうであるといい。必要なときにだけ寄り添ってくれるこの声を嫌いになる日が誰かを本当に好きになる日なら、そんないつかなんて来なくていい。だってこの声よりも尊いものなんて唯のひとつもないのだから。
 何度確認しても消えてくれないシフト表の名前。辞めたって死んだって、処理が終わるまではそこにあり続けるなら、出勤してしまったほうがまだマシだ。どうせ辞めたって、労働は免れない訳だし。っていうかどうせそのうち辞めるけど。この体も同じで、何度触って確かめてみても一向に消える素振りはない。
 明らかなる原因をもつ胃もたれ。言い訳の代わりのホットティー。相殺されてたまるかという誰かの思いと、妄想のなかで何度も殺められた別の誰か。私の人生に触れないでいてくれるなら勝手に生きていればいいけど、気苦労は絶えないわよ。でもそれでも、なりたいものにだったらいつでもなれる。やりたいことはやってしまえばいい。だって妄想は正義。いつだって私が正しい。

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