だから今夜も君に会いたい

 雨の降った次の日の山で泥濘に足を取られて転んでしまった時にこの顔の泥を拭うのは君であってほしい。僕の渾身のプロポーズに、彼女は困った顔をした。君の隣で匂いに包まれていると、僕の顔を綺麗にしてくれる君の姿が見えた。だからそれを掴もうと必死で言った。だけどどうやら伝わらなかったみたいだ。

 そうね、私があなたの顔の泥を綺麗にしてあげたら、あなたは私に何をしてくれるの?と、彼女は言った。僕は返事に困った。模範解答があるなら知りたいと思ったけれどそれを作ったのは彼女らしいから、見ることなんて許されない。

 僕は、君を愛してあげるよ。そう言うと、彼女は少し嬉しそうに、同じくらい不服そうに、僕に諭す。

 だめじゃない。その泥だらけになった君の手を綺麗に洗ってあげる。って言わないと。ハンドクリームも塗ってくれると100点、お風呂上がりに髪を乾かしてくれると120点ね。

 僕は微笑んだ。その安らかな表情のまま目を覚ます。夢の中で付き合い始めて3年が経った。彼女と、遂に愛を誓い合った。今夜も彼女に会うために、夢見心地で昼間を過ごす。今夜の君はどんな顔?起きたときには曖昧だから、また恋をするし会いたいと思う。今日はどうしよう?たまには出かけてみるのもいいね。

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