毛虫

 彼女の項の産毛が風に揺らされているのをじっとみていた。あのふわふわとした細い毛は、髪の毛なのだろうか、それともその他体毛なのだろうか。あのふわふわと柔らかそうな毛が仮に髪の毛なら、もし微妙な毛専門家にそうだと断言されたなら、僕はもうあの毛にも彼女本体にも興味をなくしてしまうだろう。わからないからこそ、答えなんてきっとないからこそ知りたい。あの毛は一体何毛なのだろう。酸っぱいだろうか、苦いだろうか、それとも仄かに甘いだろうか。触ることさえ許されないから、だからこそ切に食べたいと願う。ベンチ越しの項しか知らないあの女の薄い体毛が、喉仏と絡まり合って呼吸困難になる僕の姿を、彼女の網膜で焼き増ししたい。たっぷりと、哀れんでほしい。

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