見出し画像

年金制度の説明不足 せっかく払った保険料が無駄になる・・・

(ふうちゃん様 イラストありがとうございます。)


年金は保険です。
毎月保険料を払い、いざという事故のとき年金という保険金を受け取る保険です。
事故とは、老齢・障害・死亡の3種類です。
年金は、これらの事故により収入が途絶えた人や遺族を守るための制度です。

けれども日本の年金制度では、せっかく毎月保険料を払っても、いざ事故のとき肝心の年金が支給されない、そんなルールが多いのです。
厚生労働省はきちんと説明しているとは言い難いので、知っている人は多くありません。

そこで、今後数回(多分2回)のシリーズで、払った保険料が無駄になる年金制度のおかしな点を指摘したいと思います。

今回は「遺族年金編」です。

1、遺族基礎年金は配偶者のための年金ではない

遺族基礎年金とは、国民年金に加入している人(第1号・第2号・第3号・任意加入被保険者のことです。)が死亡した場合、その遺族に支払われる年金です。
金額は、年額で79万円弱。
残された子供がいる場合、その人数に応じて金額は加算されます。

この遺族基礎年金は、亡くなった人に高校卒業までの子供がいない場合、支給されません。

遺族基礎年金の趣旨が、親が亡くなって生計を営めなくなった子供を救うためのものだからです。

このルールは、第1号被保険者にとっては理不尽なものです。

20歳から毎月16,000円あまりの保険料をせっせと支払っても、万が一亡くなって子供がいなければ、配偶者には何も残せないからです。

ただし一応、払った保険料が無駄にならないよう、その救済策として、死亡一時金という制度があります。

第1号被保険者の方が現役時代に死亡し、老齢基礎年金も障害基礎年金も遺族基礎年金も支給される条件にあてはまらなかった場合、これまで払ってきた国民年金保険料は、全くの無駄になってしまいます。

そのような方の遺族を対象に、「死亡一時金」という保険料返金制度があります。

しかし、残念ながらこの制度で返金される保険料を、払った保険料と比較すると全く足りません。

良くて1/3、しかも返金額の上限は32万円です。
ちなみに仮に35歳で亡くなった第1号被保険者の場合、それまでの15年間で支払った国民年金保険料は、約300万円弱です。
それに対する死亡一時金は、14.5万円です。
300万円保険料を払って死亡し保険から抜けても、1/20の金額しか戻らない。
そんな元本割れ著しい保険と言えます。

2、離婚したら子供がいても支給されない。

子供がいる第一号被保険者が死亡しても、遺族基礎年金が支給されないケースも紹介します。

離婚して母親(前妻)が高校生以下の子供を引き取ったとします。
父親は子供の養育費を負担し、父子間の生計維持関係はあるとして・・・

この状態で、父親が亡くなった場合、遺族基礎年金は支給されません。

どういことかと云うと・・
遺族基礎年金は、配偶者または子供に支給される年金です。

母親は既に離婚して配偶者ではないので、年金は支給されません。

通常、配偶者に受給権がない場合、遺族基礎年金は子供支払われます。
子供に支払われるのですから、実質は母親に支払われるのと変わらない、と一見思えます。

しかし、遺族基礎年金のルールでは、子供と生計を同じくする(一緒に生活している、とほぼ同義)父親または母親がいる場合、遺族基礎年金は子供に対して支給が停止されてしまうのです。
つまり、年金が支給されないのです。

子供なんだから両親が離婚しても、普通は父親か母親のどちらかが一緒に生活をしますよね。

けれども、離婚をした後不幸にして亡くなると、せっかく長年にわたり保険料を支払ったとしても、別れた配偶者だけではなく、自分の子供にすら遺族基礎年金が支給されないのです。

私はずい分以前に社労士試験に合格していますが、受験勉強していた当時から、このルールだけはどうしてもその趣旨が理解できません。

両親が離婚した子供にとって、かなり残酷なルールだと思います。

3、妻が亡くなっても、夫に遺族厚生年金は支給されない。

遺族厚生年金は、厚生年金保険に加入している人や加入していた人が亡くなった場合、遺族に支給される年金です。

厚生年金に加入している人は国民年金の第2号被保険者ですので、この方々が亡くなった場合、通常遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方が支給されます。

遺族厚生年金について言えば、主に配偶者に支給されるケースがほとんどです。

夫が亡くなった場合、妻は年齢関わりなく、遺族厚生年金を受け取れます。
(ただし、夫死亡時に妻が30歳未満で子供がいない場合、5年で受給権がなくなります。)

一方、妻が亡くなっても、その当時夫が55歳未満の場合、夫に年金の受給権はありません。
その後、夫が55歳になっても受給権はないままです。

男女で差があるルールなのです。

夫に受給権がない場合、高校生以下の子供がいれば、権利は子供に移ります。
子供に支給されるということは、その家庭に支給されるということなので、夫に支給されるのと、ほぼ同じと言えます。

高校生以下の子供がいなければ、生計をともにする父母・孫・祖父母の順に受給権が移りますが、こうなると微妙です。

父母や祖父母は、すでに自分の老齢年金をもらっているケースが多いので、さらに遺族厚生年金の追加支給は、あっても少なそうです。
(社労士試験 一人一年金のルールですね)

結論として、夫が55歳未満の比較的若年時に妻が亡くなっても、子供がいなければ、夫に遺族厚生年金は支給されないのです。
(55歳未満なら、孫もいない人のほうが圧倒的だと思います。)

いまや夫婦ともに同じように働いている家庭のほうが多いでしょう。

年収の壁問題など、女性の社会進出を促進していながら、男女差があるこのような制度と残したままにしている厚生労働省のスタンスは、理解に苦しみます。

さらに言うと、中高齢寡婦加算という妻だけに支給される制度もあります。

これは、20年以上厚生年金に加入していた夫が死亡したとき、高校生以下の子供がおらず遺族基礎年金が支給されない(遺族厚生年金は支給されます)、40歳以上の妻を救済する制度です。
金額は、遺族基礎年金の3/4。年間58万円ほど。妻65歳まで支給されます。

夫が死亡した場合、妻が40歳以上なら支給されますが、反対に妻が死亡しても、夫は年齢に関わらわず支給されません。

なぜ、男女に格差があるのでしょう。

4、年金支給ルールも時代に見合ったものに

政府が進めている年収の壁の打破。
その重要な目的の一つが、「少子高齢化社会も迎え、女性の社会進出を促す」のはずです。

しかしながら、現在国が進めている政策は、保険料を徴収するルールでは、令和にふさわしく男女の格差をなくそうとしている一方、年金支給のルールは昭和の代表的な家庭のモデルのままなのです。
(稼ぐ父さん、専業主婦の母さん、子ども二人みたいな家庭)

そのため、「死亡しても子供がいないと遺族年金は支給しない」、「妻が死亡しても夫に年金は支給しない」という建付けがいまだに残っているのです。

冒頭でのべたとおり、年金は保険というシステムです。

保険料徴収ルールと保険金(年金)支給ルール、この両者の思想に齟齬があってはいけません。

多くの国民があまり認識していないこのような現状を、国はきちんと国民に説明をし、制度改正の議論を進めるべきと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?