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人工妊娠中絶

「人工妊娠中絶」とは、読んで字の如く、人工的に妊娠を途中で止めるための処置であり、母体保護法によってルールが決まっている。

中絶は、母体の健康・生活・幸せを守るために必要な選択肢だ。さまざまな事情によって妊娠の継続が難しいときの、大切な選択肢の一つである。しかし、「中絶をする」という経験は、母体の心身に大きな影響を与えかねないできごとでもあるため、できれば経験してほしくない処置だ。そのため、以前から口酸っぱく言っているように、「妊娠を望んでいない時には確実な避妊を」「失敗したらアフターピルもある」ということは忘れないでほしいと思っている。しかし、それでもうまくいかなかった時には人工妊娠中絶という選択肢があることを知ってほしい。

アッシャーマン症候群

先日、「中絶したら妊娠できなく(しづらく)なりますか」というマシュマロが飛んできた。結論としてはNOと言って差し支えないだろう。稀に、アッシャーマン症候群により妊娠できなくなることはあるが、これは頻度も低く、手術により治療ができる。

※アッシャーマン症候群=吸引法などの際に子宮の内壁を傷つけることにより、治る際に子宮の壁がべったりくっついて子宮内の空間がなくなる症状。そのままの状態では妊娠が難しくなる。

タイムリミット

人工妊娠中絶にはタイムリミットがある。中絶は法律によって「妊娠22週まで」と決められている。

妊娠週数の数え方

「22週まで」などと言われてもそもそも妊娠週数の数え方がわからないという人は多そうなので、妊娠週数の数え方について説明する。
妊娠週数は、最後の生理(妊娠が起こる前に来た生理)の初日を0日目として、そこから◯週◯日という数え方をする。
つまり、最後の生理がいつだったかがわからないと妊娠週数のカウントもできない(病院で検査すれば胎児の大きさからおおよその妊娠週数は割り出すことは可能)。女性のみなさんには生理周期の記録をお願いしたい。

元から生理不順があって妊娠に気がつかないまま22週を超えてしまっていた、という経験をする方もいる。妊娠を望んでいない時期にセックスをする場合には確実な避妊に取り組み、妊娠の可能性が少しでもある場合には妊娠検査薬で妊娠の有無を検査してほしい。それでも妊娠に気がつかないまま22週を超えてしまったけれど育てることは難しい、という場合には特別養子縁組の制度などを利用することもできるため、専門機関に相談してほしい。

中絶の方法

つい先日、日本でも中絶薬(9週まで使える)がやっと承認されたが、まだ実際には使われていないので説明は省略する。実際に普及してきたらまた書き足そうと思う。

中絶薬を除くと中絶方法は初期中絶と中期中絶の2種類ある。
身体的にも、精神的にも、金銭的にも、社会的(時間)にも、全てにおいて初期中絶の方が負担は軽く済むので、中絶をする場合にはできるだけ早い時期に処置をすることが大切だ。

①初期中絶

妊娠がわかった時〜妊娠12週までの間にできる方法。
掻爬(そうは)法(子宮の中にあるものを掻き出す方法)や吸引法(吸い出す)で処置をする。処置自体は短時間(10〜15分)で終わるため、日帰りでも可能。痛みや出血は少なく、役所への届出も必要ない。
処置自体は多くの場合鎮静下(点滴のお薬で軽く眠っている状態)で行うため、処置中の記憶はない。また、鎮静をかけるため処置後しばらく病院で待機し、しっかり薬の作用が消失したことを確認してから帰宅することになる。10分15分で帰宅できる前提のスケジュールは組まないようにしよう。とは言っても帰宅時までぼーっとするなどの症状を訴える方は多いため、中絶の際にはお迎えを呼んでおくと安心かもしれない。中期中絶と比べて比較的多くの産婦人科で実施されている処置である。

②中期中絶

妊娠12週〜妊娠22週の間に行う処置。
子宮収縮を促す薬剤等によって人工的に陣痛を誘発して子宮の内容物を排出させる方法。
この方法は胎児が小さいだけでそれ以外は普通の出産に近いことをするので、数日間入院して管理する必要がある。そのため、入院設備が整っている病院でないと受け入れが難しいなど制約が増える。初期中絶と比べて中期中絶を受け入れている産婦人科はかなり少なくない。
中絶後は、役所に死産届を提出する必要がある。

中絶に必要な条件

中絶には、「男性(パートナー)」の同意が必要だ(ただし、性被害であるなどの理由で相手と連絡を取るのが難しい場合はその限りではない)。また、本人が未成年の場合には連絡が取れる保護者の方の同意が必要になる。話しづらい内容であることは理解しているが、早い段階で打ち明けて一緒な考えていくことが大切だと思う。

一般的に、中絶に必要な条件は以下の通りである

・女性が中絶に同意していること
・妊娠22週以内という妊娠週数をクリアしていること
・男性(パートナー)が同意していること(性被害であるなどの理由で相手と連絡を取るのが難しい場合はその限りではない)
・(本人が未成年の場合は)保護者の同意

最後に

みんなには、妊娠検査薬を使って陽性になってトイレで1人悩むような経験はしてほしくないと思っている。だからこそ妊娠を望んでいない時には確実な避妊を徹底をお願いしたい。失敗してしまった時はアフターピルの存在を思い出してほしい。それでも妊娠してしまって困っているときは、気軽に産婦人科の医療者に相談してほしい。

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