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苦さと時間が溶けていく。

夕暮れどき、暑さと湿気が私の顔にへばりつく
改札を出てスーパーに向かおうとしたとき、トントンと誰かが私の肩を叩いた。
バイト先の先輩だ。
「今から飲み行こ。」
「いいよ。」
たまに飲みにいくような仲で、事前に予定を決めるわけでもなく、急に電話が来たり、こんな感じだったり。

***

でも、それから、飲みにいくことはなくなった。仲が悪くなったわけではない。卒論とか内定者インターンというのがあるらしい。卒業旅行にも行って学生生活を後悔のないように過ごしているらしい。

私は、将来のこととかよく分からなくて現実から逃げたくて、沢山バイトをして友達と旅行に行って、スケジュールをピンクの文字で埋めていた。

***

先輩は大学を卒業した。上京するらしい。
この町を出て行く前、事前に予定を決めてご飯に行った。
久しぶりの先輩はどこか違う感じがして、気持ちわるい。
「東京に行くんですね。寂しいなぁ」
「お前もこいよ。将来どうすんの?何かしたいことあるの?」
「んー。したいことないんですよねぇ。しいて言えば先輩のお嫁さん!」
「はいはい。まぁよく考えろよ。就活で東京来ることがあれば会おうな。」

***

春が来た。

頻繁に会う仲でもなかったのに何か、何かが足りない。
サークルやバイト、レポートに追われる学生生活の中で
E Sやサマーインターン、金融やガイシなど聞き慣れない言葉達が毎日耳の中を通るようになった。

何がしたいんだっけ。

友達に流されて説明会に参加したり、E Sを出してみたり、面接をしてみたり。自分のことや、将来のことをうまく話せなくてサマーインターンに受かることもなく
夏がきた。

秋がきた。

冬がきた。

***

就職先が決まった。
勤務地は東京。


次の春。
東京に行く。
行けるのか。オンライン研修になるのだろうか。また、気軽に、この町を離れて、飲みに行けることはあるのかな。

3秒で予定を立られることがどれだけ幸せだったのか。
ジンハイが好きだった私はハイボールが飲めるようになった。



#小説 #また乾杯しよう