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実話怪談1:2つの道をのぼる

私は子供の頃から怖い話が好きで、最近は怪談イベントなんかにもよく行かせて貰うのですが、霊感のようなものはまったくありません。
なので、バーンと幽霊を見たり、心霊写真を撮ったりとか、そういう派手な体験はありません。

しかしほんの僅かではありますが確かに不思議な体験もいくつかしていて、ここでは、その体験談や友人知人から集めた怪談などを掲載していきたいと思っています。


さて。
これは、まだ5ちゃんねるが2ちゃんねるだった頃。2009年の話です。
当時私は2ちゃんねるのオカルト板にハマって入り浸っていました。子供の頃から怖い話や怪談が好きで本や漫画なんかはめちゃくちゃ読んでいたのですが、インターネットというものができてこんなに便利に怪談が読めるようになったのか! と感動した覚えがあります。

その頃オカルト板自体もいわゆる全盛期で、今では定番になっているような質の良い怪談がたくさん量産されていました。
八尺さま、きさらぎ駅、猿夢、リンフォン、リゾートバイトあたりの話は出揃っていた頃でしょうか。その中でも一番有名で一世を風靡したとある箱のお話がありました。

かなり有名な話なのでみなさん知っているとは思うのですが、いちおう説明すると、ある男性の家の蔵から細工箱のような木の箱が出て来て、それは現代にも充分影響を及ぼしてしまう恐ろしい呪いの箱だった……というような内容のおはなしです。
ネットの特性が上手く作用してとても大きく話が広がり、検証サイトなどもいくつもできました。

と、ここまでが前提。

私はその頃、集英社のコバルト文庫でデビューしたはいいですが鳴かず飛ばず、既に挫折して編集部からの連絡もなくなっていたような状態でした。

何を書いていいか分からない、でも、何か楽しいことがしたい。
ちょうどその時、友達の手伝いでサウンドノベルのシナリオを書いたこともあり、いっちょこの「呪いの箱」というやつで無料のゲームでも作ってみようじゃないかと思い付きました。
話がとてもよくできていて面白かったし、アレンジのし甲斐もあるように思うし、それにきっと今私がやらなければすぐに誰かが作ってしまうんじゃないか、早いもの勝ちだぞというような焦りもありました。
(実際、今ではこのお話を題材にし沢山の創作がお披露目されています)

これは、その、ゲームを作るにあたって起こったちょっとだけ不思議なお話です。
さらに最初に言っておきますが、このお話はいわゆる夢オチです。
創作では禁忌とされている夢オチ怪談ですが、実際のところ、霊感のある人の怪談を聞くと「夢」というのは霊的な事象において意外と重要な役割を果たしているようです。
加門七海さんの実話怪談に、有名な「三角屋敷」というお話がありますが、あれも結局、加門さんが体験したことと主人公の方にケーキが送られてきたことの外はほとんどが彼女たちの見た夢のお話でした。
(めちゃくちゃ面白い話なので、未読で興味のある方は加門七海さんの御著書「怪談徒然草」という本を読んでみてください。)

かように、人の夢というのは霊的な世界からの挑発や警告、誘惑などに利用されるもののようです。

さて当時、私はそんなわけで「呪いの箱」を題材に使った無料ゲームを作ろうとしていました。ゲームの種類はサウンドノベルで、箱を拾った主人公が、猿夢やきさらぎ駅など、いわゆる「2ちゃんねるの怪談」にどんどん巻き込まれて行く、というようなストーリーだったと記憶しています。

自分ひとりでシナリオとイラストを描いて、効果音と音楽を探して、プログラミングをして……というのは膨大な作業でなかなか進まず、私自身も盛り上がったわりにはすぐに飽きてしまい、一気にことを進めようとはせずに半年くらい掛けてのんびり準備をしていました。
ちなみにその頃、私はmixiゲームの「ひつじ村(β版)」というのにハマっており、毎日ひつじさんやうさぎさんなどを育てつつ健やかに過ごしていたことを追記しておきます。

とはいえそうこうするうちに大分骨組みもできてきたので、ここまできたら一気に仕事を進めようと思い、私はゲームのプログラムを一緒にしてくれるメンバーをネットで探し始めました。
当時の日記を見ると、私はこの話を100%創作だと考えてはいましたが、考察サイトなどを調べて恐らく舞台になったのはここだろう、というような地域などを特定し、ゲーム自体の最終舞台にしようと考えていたようです。

さて人集めですが、最初は2ちゃんねるに書きこみしてみたものの、いまひとつちょうどいい人材が集まりません。

盛り上がったり盛り下がったり、やろうと思っても特に進まず、思い出して作業する日があったりなかったり、私の中でこのサウンドノベル計画の重要度はかなり低くなっておりました。

何よりひつじ村。

ああ、可愛かったよひつじ村。もう一回あの初期のひつじ村やりたい……。

という話は置いておいて、その日も私はひつじ村のためにmixiにログインしていました。
mixiには同じ趣味の人が集まるコミュニティというものがあり、ふと思い立って調べてみると、例の箱の話のネタ元である「死ぬほど洒落にならない怖い話スレ」や「怖いフリーゲーム」などのコミュニティ、また、ゲームを作りたい人が集まるコミュニティなどがありました。

おお、サウンドノベルを作る人たちをここで集めればよいのではないか!? 匿名の2ちゃんねるよりは人が集まりやすいかもしれない。
そう思い付いた私は、そのうちのいくつかのコミュに事情を説明書きしたトピックを立てました。

「当方プロの作家です。〇〇〇の話を元にした2ちゃんねるの怖い話の無料サウンドノベルを作りたく、プログラムできる方を募集します」

ところでmixiというのは匿名やハンドルネームで参加できるSNSではありますが、私はその中でもかなり身バレをする使い方をしていた方だと思います。

日記こそ友達限定ではありましたが、自分が作家であることはオープンにしていましたし、ブログのURLなども載せていたと思います。

だからこそ、匿名の場所で何者かも分からない人物が人を集めるよりも信用して募集に応えてくれる人がいるのではないかと思ったのです。

さてその日、それまでβ版だったひつじ村がその前日に正式稼働し、私の頭の中はひつじ村でいっぱい。プログラマ募集の書きこみをしたことなどすっかり忘れ、私は眠る寸前までひつじ村を堪能し、かわゆいモフモフ動物のことを考えながら眠りにつきました。

そうしてその夜、夢を見ました。

当時の日記が見つかったので、以下にそちらの夢の内容を書き写します。
日付けは2009年12月23日。夢を見たのは日付が変わった頃でしょうか。

私はB5くらいの茶色い封筒を持っています。中身は何かの企画書のようなものです。
見知らぬおかっぱの女性とそれについて相談するべく、彼女の車に乗り込みました。
「ファミレスに行きましょう」と彼女は言うのですが、私はなんとなくイヤだったので漫画喫茶かどこかにしない?と提案します。
すると彼女は突然不機嫌な様子になったので、私は慌てて「いや、あなたの好きな場所でいいよ、どこでも」と言い直しました。
実際話ができるならどこでも良かったし、彼女の機嫌を損ねると面倒だと思ったのです。
やがて彼女の運転する車はお寺のような場所に着きました。そこは私の叔母(現実に某信仰を持っている)が管理を任されているお寺?で、叔母の寝泊りするトタン張りの小屋が駐車場から見えて洗濯物が干されています。昼下がりの陽光、森の緑が気持ちが良いような場所で、「確かにここなら静かに話が出来る」と私は思いました。

車から出ると叔母が歓迎して出迎えてくれました。
私は彼女と二人、本堂のような場所を目指して駐車場から丘を登り始めます。
両手で抱えるほどの、大きなじゃがいものような茶色くつるりとした岩をでたらめに積んだような斜面はデコボコしていてとても登りにくく、私は非常に難儀しました。四つんばいで岩を抱えながら歩く私の先を彼女はどんどん歩いていきます。
崖のような斜面の隣はゆるやかなスロープ状の道(平らな岩かコンクリ)で、私は足を踏み外してそこに降りてしまいました。といっても大した高さでもなし、少し遠回りのようですが道の先は斜面と同じ場所に続いています。湧き水が湧いているのか枯れた川底だったのか、濡れていてちょっと汚れていますが崖よりいくらも楽で、なんだ最初からこっちを登ればよかった、と思いながら先を歩く彼女に声を掛けました。
「私はこっちを登っていくよ。あなたもそうすれば?」
なぜかいつの間にか彼女は私の姉になっています。
姉は屈託なく笑いながらいいました。

「だけど、私はそこで子供を堕ろしたことがあるから歩きたくないなあ」

足元を見ると、へその緒をつけたまま、または内臓をはみ出してぺしゃんこに潰れ干からびた赤黒い赤ん坊の死体が足の踏み場もないほどたくさん、地面にへばりついています。ああこの汚れは全部赤ん坊の死体だったのかと納得しながら、肉の厚みの残る潰れた頭をうっかり踏んでしまわないように数歩進んで、いや、さすがにこれはおかしいだろ、ここは歩いちゃいけないところだと我に返った私は叔母の待つ駐車場へ急いで引き返しました。
「いやー、もう無理!お祓いしてー!」なんてちょっと楽しそうに叫びながら。 


……以上が当時の日記に書かれていた夢の内容です。
所詮夢だと考えていたし、今ほどオカルト好きをオープンにしていなかったので、極力冷静に、怖い話というよりは見たことだけを淡々と書こうとしている様子が伺えます。

ちなみにこの時目を覚ましたのは2時半、イヤな夢を見てしまったな、やけに印象的だったな……最近何か、影響されるような怖いものを見たっけ?
と、私はかなり長い間真剣に考えて、やっと例のサウンドノベルのことを思い出しました。

ゲームの元にしようとしていた怪談というのは、子供をたくさん殺してヘソの緒や指などを詰めて完成させる呪いの箱の話です。
作ろうとしていたゲームの内容は、その箱に知らずに触れてしまった自分の恋人とお腹の子供を守るというストーリーでした。

「ああ、あの封筒。ゲームの企画書か」

と、布団の中で私は思いました。そしてその瞬間、急にゾクリと背中が冷えました。
自分は前日の夜、それまで匿名だったこの怪談の世界に初めて自ら身分を明かして名乗りを上げてしまったのだということに気付いたのです。

その符号になんだか急に怖くなって、結局、私は書きこみを削除し、勿体なくはあったけれどゲームの制作を諦めました。

以上、たかが夢の話です。

……という話を後日、霊感のある知人のかたにしたら「美由紀ちゃん、それは辞めてよかったね」と彼女は言ってくれました。
「なんだろう、でもそれって怪異というよりは、ご先祖様の警告とか、そういう感じがするかも」とも。

例え物語自体は創作だとしても、そこに沢山の人の念が集まれば、嘘はただの嘘ではなくなってしまうのかもしれません。

ちなみに私はその頃から子宮筋腫を患っていたのですが長い間放置してしまい、今から2年程前にとうとう手術をすることになりました。下腹部を大きくがばっと開腹したのですが、実に25個もの大小の筋腫が大量にできていて、きっと私のお腹の中はじゃがいもをでたらめに積んだみたいにつるりとでこぼこしていたと思います。


と、言う話を書き終えたいま。そう言えば昨夜も道に殺された子供の生首が転がっている夢を見たことを思いしたので、肝心の怪談のタイトル部分だけはぼかさせていただきました。気休めですが……。

そういえば、先日怪談配信をした時にもこの話のタイトルを言おうとした瞬間に録画動画が止まって先を観進められなくなるということがありました。

私はこの箱の話自体は創作だと信じていますが、もしかしたら、こんなに広まることは不本意な「禁忌の話」の一面を持っているのかもしれないですね。



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