ダメでもスキ13

ダメ男というのは大抵、嘘吐きである。

女好きは女を口説くために嘘を吐く。甲斐性なしは言い逃れのために嘘を吐く。とかく先を考えず、その場を乗り切れればそれでいい、という勢いで口から出任せを言いまくるのである。


昔付き合った男の子にどうしようもない嘘吐きがいた。とにかく、出る言葉出る言葉、全てに何がしかの嘘やハッタリが混ざっている。

彼と出会ったのは私が20歳の頃で、年齢は私の少し上だった。
いい感じに仲良くなったある日、彼に「今から家に行ってもいい?」と訊ねた。ちょうど平日の昼間だったと思う。「いいよ」と彼は言った。「うち、俺の一人暮らしだから」

しかし、彼の家は広い一軒家だった。しかも、どう見ても一人暮らしの生活感ではない。

玄関には複数人の靴が並び、あらゆる部屋には家具が溢れ、確かにその時他に人はいなかったがそこに家族の生活する匂いが濃厚に漂っている。

私はおそるおそる訊ねた。

「……あのう、本当に一人暮らしなの?」「うん。そうだよ」
嘘だと思ったが、もちろん嘘だった。どうしてそんな嘘を吐いたのかは全く謎である。

その後私は何度も彼の家を訪ねたが、当然のごとく、彼は両親と住んでいた。お母さまとご挨拶もした。

これが彼から聞かされた最初の嘘である。


続く

※こちらはスポーツニッポンアダルト面にて水曜日に連載中の拙コラム「ダメでもスキ♡」の再録です。

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