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かりそめのまなざし 2.バラ園の静かな幸福

伸びた髪に、優しくそっと手を置いた。
娘は顔をあげず、じっと動きを止めていた。

窓の外では、手入れされた薔薇が日差しの中ピンク色に輝き、揺れるマリーゴールドに蝶がとまった。

ゆっくりと時が流れている。いつもと変わらない。ただ、日々共に過ごすこの娘だけが絶えず変化していた。外見は徐々にわたしに似てきている。しかし裏腹に、何を思っているのかますます分からなく、ますますミステリアスになってゆく。最近はあまり微笑みもかけず、面白くなさそうに顔をわたしから背けるようになった。

わたしは何も変わらない。

そんなわたしに彼女はまるで不満をもっているかのよう。窓の外は変わらず、美しい庭がある。わたしのお気に入りの場所。花が咲き、蝶が舞い、モンスーンの雨が落ち、花が散る。めくるめく移ろいの中に、わたしは静かに埋没する。何も変わらないまま。