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奈良に行くなら[22]〜立里荒神社編

「えー、そこ奈良なの〜?」という声が聞こえてきそうな気もしますが。はい。奈良ですよ。奈良県 吉野郡 野迫川(のせがわ)村。荒神岳(こうじんだけ)の山頂に鎮座される神様です。

野迫川村は和歌山県との県境にある山間部の村。行政区画は奈良県ですが、文化圏的には奈良というより、高野山でしょうかね。この荒神社近隣は。
公共交通機関で向かうには、高野山駅前(ケーブルカー)から南海りんかいバス(1日1便。要予約。立里(たてり)荒神前下車)に乗ることになるので、JR奈良駅を起点にしても和歌山経由、近鉄奈良駅スタートだと大阪まで経由して、奈良→大阪→和歌山→奈良というルートになるのです。京都から行っても伊勢から行っても大阪→和歌山経由という不思議な立地。自家用車の場合でも、高野山から龍神スカイライン経由、とあるので、なんで奈良なん?と言ってみたくもなるのですが。首都圏からだと、少なくとも大阪あたりで前泊して朝イチで出発しないと日を跨ぐハメに陥ります。

南海りんかいバスでのアクセス方法
(2022年5月時点)
最新情報は南海バスHP↑にてご確認ください

おススメは前日に移動して高野山の宿坊に泊まるコースなのですが。それはもう奈良旅やないやん、という…。高野山は和歌山県なのでねー。高野山も魅力溢れる地なので、いずれまとめたいな〜と思っていますが。今回は奈良のスポットとして荒神社のご紹介です。

私にとって高野山が奈良の延長線上にあるように感じるのは、単に隣接しているからだけでなく、やはり空海の歩いたルートとして奈良〜高野山がつながるから。そんなご縁を感じつつ…の高野山です。

高野山は、たまたま見た雑誌の記事に一目惚れ的な衝撃を受けて、出向いた場所。初めて訪れた際に、奥之院・御廟の前に行くと涙が止まらなくなるという不思議体験をし…以来、行く度に同じ現象に見舞われ。自分でもワケがわからず…何なんだ?これは?と気になって、空海や高野山のことを色々と調べていく過程で興味を持ったのが、こちらの荒神社でした。

空海が高野山を開創する際に勧請した知り、ともかく行ってみることに。なにせ移動に時間を要すこともあって、私としてはかなり辺境の地へ赴いてきた気分だったのですが、境内には食堂や宿泊できる参籠所まであってびっくりしました。そして石段にびっっっちり並ぶ鳥居。この地に深く信仰が根づいているのだなぁと背筋がシャキーンと伸びる思いでした。

ズララララ…

つづら折りの石段をぜいぜいしながら登りきると、山頂に本殿が。「やっと着いた〜」「高いねー」なんてひとしきりはしゃいだ後、ふと見上げると…

杉の木が本殿の軒を貫いていました。

建物を貫く木は春日大社の林檎の庭などにも見られますが、それでもやはりかなり珍しいのではないでしょうか。そこに生きる樹木を建物のために伐採したりせず、建物の方をその場の環境に適した形にして配置する。このくり抜かれた軒に気づいた時にふと、あ…私はこれを見に来たんだな、と思いました。とかく我が事ばかりを優先しがちな自分を諌められたような。またそれは人間の都合だけでもなく。あらゆる生き物と自然環境とのつながりがあって、今この世界があること、私たちが万物によって生かされてることに気づきなさい、と言われたように思い。

くり抜くように作られた軒

こちらのご祭神は、火産霊神(ほむすびのかみ=かぐつち)と誉田別命(ほんだわけのみこと=八幡さま)。火の神様である荒神さまには厳しいイメージがありましたが、実際に訪れてみるとそこは柔らかな空気感の場所でした。ま、ま、お天気も良かったのでね…呑気すぎますか。

また立里荒神の立里とは、踏鞴(たたら)が転じたもののようでもあるそうです。「踏鞴」が「立利」に転じて「立里」という地名に変化した、と。
踏鞴とは古代から行われてきた製鉄法やその精錬場のことを指します。鉄鉱石や砂鉄を原料として、低温還元によって純度の高い鉄を取り出す技法。硫化銅の産出地だった立里は、江戸時代には幕府の直営鉱山として開発されるほどでした。

踏鞴と聞いて思い当たるのは…そう、若き日の空海です。
都の大学をドロップアウトした後、山岳修行で吉野の山を歩き回っていた空海。「少年の日、吉野より南に1日、西に2日行きて幽遠の地を見つける。名付けて高野という」とも書き残していますが、山の民と交流があった空海はこの頃から、この地域の地下資源に関して知識を得ていたのだと思います。

水銀も同じく。空海が金剛峯寺を創建する際に、ご神領であった高野山の土地を譲ったのは丹生(にう)の神さま、丹生都比売(にうつひめ)大神でした。水銀を生む朱砂(=辰砂)の鉱石は「丹」と呼ばれ、その鉱脈のある地名とされるのが「丹生」であることからも、この辺り一帯が鉱物資源の宝庫であったことがわかります。

空海がここに荒神さまを勧請したのは、唐に渡る前からもともとここに馴染みがあり、重要な場所であることを理解していたから? そんなふうに感じた次第です。

摂社には、太陽神の天照皇大神、山を司る大山祇(おおやまつみ)命、食物神の保食(うけもち)命、水を司る市杵島姫(いちきしまひめ)命、そして朱砂(すさ=水銀)の名を持ち製鉄神としても信仰される素盞雄(すさのお)命。

レンズのせいとわかっていても神々しい…

本殿のある山頂は標高1260m。周辺が白樺園地になっている荒神社からは大和連山の山々を見渡せ、すうぅ〜っとを息を吸い込むと清々しい空気でカラダも満たされる爽快感。
また雲海景勝地とされ、早朝、気象条件が揃うと境内から見事な雲海が見られるそうです。
雲海から昇る日の出を…チャンスがあれば見てみたいものです。


◆野迫川村の雲海情報とライブカメラ

※2023年5月追記
禰宜 林 正裕氏のお話

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