雨あがり
この風の中に
どれだけの夏が生きているのだろう
一瞬の雨に洗われた冷ややかな空気のもとで
重なる雲や
鮮やかな花の色に
何かを感じ取ろうとするほど
待ち遠しい季節ではないのに
風は確実に季節を呼ぶ
いつでも
私の足もとや耳や髪の近くを通り
感覚を揺らし始める
確実なものと曖昧なもの
そのどれもが一雨ごとに浄化されていく
たとえむせるように陰鬱な梅雨の薫りの中でさえ
時々崩れ落ちるようにして現れていくのがわかる
風に揺られてもう一度辺りを見た
確かな夏の光
私はそのとき
長い航海へ発つ準備を始める
(1993頃 中日新聞掲載)
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