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言葉とは、見えない愛の形〜家族に贈りたくなる1冊「母の日テスト」〜

本記事は、オンラインキャリアスクール『SHElikes』のWebライティングコースのうち、エッセイライティングの課題で執筆いたしました。添削を受け、加筆・修正しております。
■課題概要
・テーマ:「家族と贈り物にまつわるエッセイ」
・想定読者:20代後半〜30代男女
・依頼背景:
毎月1日を「家族の日」として制定したい。この日に合わせて、読者が「家族のことを考え、贈り物をしたいな…」と思うようなエッセイを掲載したいです。直接的に”贈り物をしましょう!”と言及する必要はありません。大事な家族のことを考え、思い出してしまうような、家族と贈り物にまつわるあたたかいエッセイをお願いいたします。
・字数:2,000~5,000字
・与えたい読後感:家族に対して思いを馳せる。あたたかい気持ちになる。

SHElikesライティング課題BOOKより一部引用

桜もひらひらと舞い散り、太陽の光に反射して青々とした新緑が映える5月。

今年も母の日と父の日が近づいている。

社会人4年目になるとそこそこお金も貯まり、これまで育ててくれた両親に、何かいいものをプレゼントしたいと思うようになる。

ふと、過去にプレゼントしたときのことを思い出す。




大学の卒業旅行でイタリアへ。

ステイホームという言葉が流行る直前。この卒業旅行は途中で帰ることになってしまった。きらきらと光り、存在感を放っていたベネチアンビーズのネックレスが目に入った。学生だった私にとって少し予算オーバーの値段だったが、母の好みのデザインと思い、奮発して購入した。

帰国後、母の反応を期待して渡してみた。

「ありがとう!とてもすてき素敵……!だけど使うにはもったいないから、大切に保管するね」

「え?保管しちゃうの……?」私は母に、観賞用として持ってもらいたかったのではなく、身につけてほしかったのだ。

確かに喜んでもらえたけど、家族への贈り物って何がいいのか考えるきっかけになった。どうやら贈り物は、金額が全てではないようだ。




母の日に何を渡そうか、悩んでいても仕方ないので、ひとまず買い物に出掛けた。

お店には「母の日コーナー」がセッティングされていて、定番の花や入浴グッズなど、正直無難と思えるものが陳列されている。

定番の贈り物も悪くないけれど、せっかく渡すならサプライズ感があるもので感謝の気持ちを伝えたい。

何が良いだろうか。別のお店に行こうと体をお店の外に向けようとした瞬間、あるものが目に入った。

「母の日テスト…?」

それは『母の日テスト』という自分の母親の誕生日から子供の頃の夢など、あらゆる質問の答えを書き込んでいく冊子だった。

そして母親に質問の答えを採点してもらう、という内容である。自分は母についてどれだけ知っているのか。知っているようで知らないことが多いのかもしれない。

時間をかけたり贈る相手のことを考えたことが分かる、この言葉の贈り物は、気持ちが伝わって喜んでもらえるのではないか。

最近は便利なもので、スマホでプレゼントを贈ることができる。家族への贈り物にもスマホのサービスを活用するのも選択肢としてありだと思う。

もちろん便利なことは適度に取り入れたい。けど、家族へのプレゼントはそれでいいのか。自分の中で何かが引っかかる。

家族への贈り物はもっと丁寧に、時間を使って考えたい。そう思っていた自分にとって、あえて手書きで書くというアナログな言葉の贈り物は、心温まるプレゼントのような気がした。

お店の外に向いていた体を、もう一度「母の日コーナー」に向け直し、冊子を手にとってレジへ向かった。


帰宅後、早速『母の日テスト』に取り組むことにした。どれだけ母を知っているかドキドキしながら表紙をめくる。

最初は基本的なプロフィール。

「うん、このくらいはね」
サクサク書き進めることができた。

でも次第に幼少期の話や夢など聞いてみないと分からない質問が増えてきた。

分からない質問は、予想を書いてみよう。渡したあとに教えてもらえばいいじゃない。そうすれば自然とコミュニケーションも取れる。

手間ひまかけているだけじゃなくて、親子のコミュニケーションもとれるなんて、なんてすてき贈り物なんだろうと自画自賛したのはここだけの話。

約100ページに渡る『母の日テスト』を、平日の合間を縫って2~3日ほどで書き上げた。


数日後、書き上げた『母の日テスト』を持って、実家に帰った。一足早く、母の日のプレゼントを渡しに行ったのだ。

持っていったのは『母の日テスト』1冊と、ちょっとした贈り物。言葉の贈り物をメインにしたのだ。これまでは母の日に物を贈っていたので、いつもと違うプレゼントに、少しドキドキしていた。

母とリビングで雑談を楽しむ。話が一段落したときに、今だと思って切り出した。

「今年は『母の日テスト』がプレゼントなんだ。お母さんのことについての質問があって、もう書き込んであるの。正直に言うと、分からない質問もあったんだ。でも私の予想を書いたから、答えを教えて!」

と母に渡す。母はとても驚いた顔をしていた。でも一瞬で表情が変わった。

どんなことが書いてあるんだろうと目をキラキラさせ、まるで少女のような表情をしながら、赤ペンを持って冊子を開いた。リビングで答え合わせが始まった。

答え合わせの時間は想像以上に盛り上がった。
「え、お母さんそんな夢があったの?」「今そんなことに興味があるんだ!」

知らなかった母の一面を知ることができた。予想が外れてしまった質問もあったが、笑いが絶えない時間になった。

会話には入ってこないものの、近くで聞いていた父親も、なんとなく楽しそうな表情をしていた。

タイトルに「テスト」という言葉がある通り、最後は母に採点をしてもらう。

ドキドキの採点結果。

「採点結果は、100点です!」とニコニコしながら母は言う。

「仕事も忙しいのに、こんなに書いてくれてありがとう。物を貰うのも嬉しいけど、こうやって考えてくれたんだなあって伝わってきて、すごくうれしいよ」と満面の笑みで、私の頭を撫でた。




言葉の贈り物はとてもすてきだと実感した。遠方に住んでいる場合や『母の日テスト』はちょっと照れくさいときは、手軽なギフトカードに手書きのメッセージを添えるだけでも十分だと思う。

私が小学生から中学生のときに、遠方に住む祖母がシーズンやイベントごとにギフトカードを贈ってくれていた。当時は毎回届くギフトカードはうれしかったけれど、保管に場所をとるなと思っていたときもある。

でも、大人になった今は、ギフトカードは手軽なのに貰ってうれしいものだったなと、恋しくなる。

就職を機に、実家から一人暮らしをするために引越し準備をしていたときに、大きなお菓子の缶に保管していた祖母からのギフトカードを見つけた。

ざっと20~30枚ほどだろうか。毎回、贈ってくれた祖母の愛を感じ、思わず引っ越し準備の手を止めて、見返してしまった。

愛は数えることはできないが、メッセージとして形に現れていると、まるで愛が具現化されたように感じる。




「メッセージって何を書いたらいいか分からない」という人も多いのではないか。確かにまっさらな便箋に一から書くのは慣れていないと難しく感じると思う。

そんな場合は『母の日テスト』のように、質問形式のものだと案外スラスラ書けるのでおすすめ。

また、物を送るときにメッセージカードを添えるのも、すてきだと思う。小さくても、手書きのメッセージがあるだけで心が温まることは間違いない。


贈り物というと、物を贈るというイメージが強い。しかし、言葉も贈り物だ。

何度貰ってもうれしく、好きなときに見返すこともできる。文字にその人らしさが現れるのも、ほっこりする。

普段、LINEなどでコミュニケーションを頻繁にとっていたとしても、手書きのメッセージなら普段は言えないような言葉も伝えやすい。

言葉の贈り物で、家族への愛を形にしてみるのはいかがだろうか。


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