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機械!スピード!戦争!激しすぎる思想、F・T・マリネッティのグラフィックデザイン

F・T・マリネッティ(フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ)は元々は詩人であり、『未来派宣言』を発表したことでグラフィックデザインに影響を及ぼした人物です。

未来派とは…20世紀初頭にイタリアで生まれた芸術運動の一派。「機械美」「スピード」「ダイナミズム」が特徴の、過激で凄まじいエネルギーを持った芸術運動。後にダダやロシア構成主義などに影響を与えることになる。


未来派宣言

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1909年2月20日、マリネッティがイタリアの全国紙である『ル・フィガロ』紙の第一面に掲載した『未来派宣言』は、熱狂的な支持者を増やしました。

1.我々は、危険への愛、活力と無謀さの習慣を謳いたい。
2.我々の詩の本質的な要素は勇気、大胆さ、反逆であるだろう。
3.文学はこれまで物思いに耽る静止状態、恍惚感、眠りを賞賛してきたが、我々は、攻撃的な運動、熱っぽい不眠、曲芸のようなステップ、危うい飛躍、平手打ち、拳の一撃を賛美したい。
4.我々は、世界の華麗さが新しい美によって豊かになったことを宣言する。それは速度の美だ。爆発音を響かせる蛇のような太い管で飾られたボディを持つレーシングカー咆哮をあげて、機銃掃射の上を走り抜けるような自動車は「サモトラケのニケ」よりも美しい。
5.我々は、自動車のハンドルを握る男性を謳いたい。その観念の軸は地球を貫き、地球の軌道のサーキットに突入する。
6.詩人は、本源的な諸要素の強烈な熱気を増大させるために、熱情と輝きを持って惜しげもなく自らを浪費しなければならない。
7.もはや闘争の中にしか美は存在しない。攻撃的な性格を持たない傑作など存在しない。詩は未知の諸刃に対する荒々しい襲撃となるべきである。
8.我々は諸世紀の最先端の岬にいる!不可能性の神秘の扉を打ち破らなければならないときに、後ろを振り返ったところでいったい何になるんだろう?時間と空間は昨日死んだ。偏在する永遠の速度を想像した以上、我々はすでに絶対の中で生きているのだ。
9.我々は、世界の唯一の衛生法である戦争、軍事主義、愛国主義、アナーキストの破壊的行為、殺すという美しい観念、女性軽視を賛美したい。
10.我々は美術館と図書館を破壊し、モラリズム、フェミニズム、その他のあらゆるご都合主義的、功利主義的臆病根性と闘いたい。
11.我々は謳うだろう、労働、快楽、反逆に先導された大いなる群衆を、現代の首都の革命の多彩で多声的な怒濤を、荒々しい電気の月に照らされた兵器工場や造船所の夜の震えを、煙を吐く蛇を飲み込む貧欲な鉄道の駅を、煙の糸で雲から吊るされた大工場を、太陽に照らされて悪魔のナイフのように輝く大河の上に身を投げ出した体操選手のように跳躍する橋を、水平線をかすめる向こうみずな外洋汽船を、長いパイプの手綱をつけた巨大な鋼鉄製の馬のように、線路の上で足踏みする分厚い胸板の蒸気機関車と、プロペラが風に吹かれる旗の音と熱狂した群衆の拍手喝采の音を立てる飛行機の滑るような飛翔を。

引用:GRAPHIC DESIGN THEORY


さすが詩人、という表現力ながら…内容が激しすぎる!!

この『未来派宣言』から、マリネッティが攻撃的で危険な思想を持った人物であることが分かります。

一番ぎょっとしたのは戦争を賞賛していること。

マリネッティは、戦争こそが最も盛大にテクノロジーの潜在能力を発揮させ、非情な「非人間性」こそが、人間であることから脱却させ、新しい未来の人間を創りだすと信じていました。

こんなの発表したら捕まるだろうと思いますが、実際に何度も逮捕や投獄をされています。

でもなぜこの宣言の支持者が爆発的に増えたのか?それには当時のイタリアの状況が関係しているのかもしれません。


当時のイタリアの状況

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1980年代のイタリアは貿易により大不況に陥っていました。

しかし19世紀後半から、イタリアでは電話や鉄道、自動車が出現し、20世紀初頭に大産業時代に突入します。自動車メーカー「アルファロメオ」が誕生したのもこの頃。

電気や水道、ガスが普及し市民の生活水準は向上したものの、過酷な労働でアルコール依存者も増えました。

不況の時代から抜け出し、工業化への波に乗ったイタリアの状況で、マリネッティの強い言葉は耳を傾けてしまうものだったのかもしれないと思いました。


マリネッティのグラフィックデザイン

マリネッティは自身の思想にのっとり、読みやすさなどの機能性を無視して、非対称性を打ち砕き、数字、記号、文字、画像を解放し、捻ったり曲げたり形を誇張、多様な要素を並置し、それによって予期しない関連性を生み出す均整を無視したダイナミックな構成を作成しました。

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かっこいい…!!


まとめ

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騒音、速度、攻撃性。

過去を見ず、ただ未来だけを見て、激しい爆音と共にスピードを出して突き進む精神は、まさに「レーシングカーのような人」に思いました。

思想にはかなり問題ありますが、これだけ一つの信念に命を燃やしたこと自体は美しいと思うのです。

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