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キングオブカリブ

シナリオ

人 物

無縁(28)お笑い芸人

乱丸(26)お笑い芸人

雅(24)お笑い芸人


○無縁のアパート・室内(夜)

隅々まで整理整頓されているコンパクトなワンルーム。

無縁(28)と乱丸(26)と雅(24)が小さなローテーブルを囲み座っている。

無縁、テーブルの上に開いたノートをペラペラとめくりながら、

無縁「(不機嫌そうに)これ、ウケんの?」

乱丸「やってみないとわからないでしょう。構成作家みたいなこと言わないでくださいよ」

乱丸、眼鏡の奥から無縁を冷ややかに睨みつける。

無縁「オレの心はまるでカリブの難破船って、何これ? 意味分かんないんだけど」

無縁、ボールペンをくるくると回す。

乱丸「木っ端微塵って意味ですよ。まったく、これだから教養のない人は」

無縁「(不満げに)はぁ? 教養って……、誰でも笑えるのがお笑いってもんだろ?」

雅がお腹を抱えてケタケタと笑い出す。

雅「それじゃあ僕たちがやってることって、お笑いじゃないじゃん」

無縁「おい! どういう意味だよ」

雅「だって僕たち、ぜーんぜん面白くないもん」

無縁「お前はネタもつくんねぇし、セリフも覚えねぇし、やる気あんのかよ」

雅「ナシよりのー、アリ?」

無縁「あんのかよ、ねーのかよ。どっちだよ」

乱丸、呆れ顔で大きく息を吐く。

乱丸「ニュアンスでわかりません? あるっていってるんですよ。あなたって本当にセンスがない」

雅、コクコクと頷くとドスンと寝転がり、本棚からマンガ本を抜き取りパラパラパラとめくる。

無縁「おいお前、やる気ねぇじゃねーかよ。ネタ出しに参加しろ。これだって仕事だぞ」

雅「今日はノー残業デーでーす」

乱丸「雅はいつもノー残業デーでしょう」

雅「昨日はプレミアムフライデーでしたー!」

乱丸「それは失礼」

無縁「お前らなんで会話噛み合ってんの? 意味わかんねーし。だいたい今日は水曜日だろ。それにプレミアムフライデーって、まだ生きてんのか」

乱丸「笑いはフィーリング。それにセンス。あなたには、それがない」

無縁、ボールペンでテーブルを小刻みに叩きながら、

無縁「そりゃそうかもしんねぇけど。意味分かるように喋んねぇーとお客さんに伝わらないだろーよ」

雅「え? 伝わってないのは、無縁君にだけだよ? みんな意味わかってて笑ってくれないんだよー。ウケる」

雅、何故だか楽しそう。

無縁「お前がウケてどうするよ。オレはみんなが分かってくれる笑いがやりたいの」

雅「たとえば?」

無縁「お茶の間がワッと沸くようなヤツだよ」

雅「えー。ライブでも3笑いがいいところなのに?」

乱丸「だいたいお茶の間って、昭和ですか。みんなを笑わせようとするから無理なんですよ」

無縁「お笑いってそういうもんだろ」

乱丸「それは、あなたの中の、でしょう? ターゲットを絞らないと生き残れませんよ」

雅「さすがに3笑いは絞りすぎでしょー」

乱丸、腕組し、宙を見つめるように考え込む。

乱丸「確かに。それもそうですね。次のライブでは6笑いとりにいきましょう」

無縁「6って。志し低っく!」

乱丸「何いってるんですか、倍ですよ? だいたいあなた、前回のライブ、滑りまくってたじゃないですか」

雅「1笑いもとれてなかったよね」

無縁「あーそーかよ。オレの心はまるでカリブの難破船だよ!」

雅クツクツと笑う。

雅「無縁君やればできんじゃん」

無縁「とにかくネタ考えんぞ。今年こそキングオブコント、一回戦突破すっからな!」

乱丸「一回戦って(ぼそっと呟く)志し低っく!」

雅、ぷっと吹き出し、寝転がったまま背中を丸めて笑う。

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