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アンサー・ピェンロー

「アンサーソング」という言葉がある。すでに存在する歌に対する返答として作られた歌。日本初のアンサーソングは、かの有名な「黒ネコのタンゴ」に対する「ドラネコのゴーゴー」だとか。

曲の内容は置いといて「黒ネコが踊る気品に満ちたタンゴ」と「ドラネコが狂ったように踊るゴーゴー」どちらも見てみたいみよし@54歳です。

この記事は、クリエイター「花 丸恵さん」が書かれた「気づいたらピェンロー」を読んで「どうしても食べたくなって作ってみたよ」という、元記事をオマージュして書いたアンサーソングならぬ「アンサーピェンロー」である。

ピェンローを作るための材料は、つつがなく揃っている。私はピェンロー初心者だ。まだ慢心するには至らないので、干し椎茸は忘れない(笑)

レシピの通り、干し椎茸と昆布をつけて出汁をとり、白菜の芯を弱火でコトコト20分。

鶏肉を入れたら、ここで大量のごま油投入第一弾。そしてまたコトコトコトコト20分。

待ち時間が手持ち無沙汰なのと、ピェンローができる楽しみとが相まって、「コトコトコトコトピェンロー♪」「コトコトコトコトピェンロー♪」と電車ごっこのように歌いながらキッチンを行進する、謎のピェンローウォークが始まっている。

さぁ、次は豚バラと白菜の葉っぱ部分だ。

豚肉の上から白菜でフタをする。「この鍋の主役はオレだぜ」と大量の白菜が自己顕示している。さらにコトコトコトコト20分。

「コトコトコトコトピェンロー♪」は行進から謎のダンスへと変化している。「コトコトコトコト」(両膝を曲げ両手は力こぶでリズムをとりながら)「ピェンロー!」(で両膝を伸ばし両手を突き上げる)

右へ左へ両手を振りかざすうちに、アホな料理人の踊りは見たくないのか、大量の白菜が出汁の中へ沈んでいく。

白菜がシナシナになってきたところで、ごま油投入第二弾!ごま油といえばコレ!「かどやの純正ごま油」何を隠そう私は小豆島出身なのである。

その昔、鹿児島の大学に入学してまもなくホームシックになったとき、鹿児島のスーパーでかどやのごま油を見つけて涙が出そうになったことがあったっけ、と思い出しながらごま油を贅沢に投入する。

なにせ、ピェンロー様はごま油を必要としている。かどやもこれだけ贅沢に使ってくれるピェンロー様には頭が上がらないだろう。

いよいよ最後の具。「春雨じゃ、濡れてまいろう」と月形半平太風にカッコをつけながら、スーパーで一番安かった春雨に「お前もやれるぞ」と鼓舞する気持ちを込めて送り出す。

優しい火でコトコトコトコト計70分。
それにしても、私はこれまで白菜をここまで大事に一つの料理として育てたことがあっただろうか。白菜が主役のピェンローを作りながら、これまでの白菜への雑な扱いを省みた。

できあがり!

ピェンローは、できあがったものに自分好みの味をつけて楽しむものらしい。そう聞いて、うちの控え選手が「やっと出番だぜ」と言わんばかりに、集まってくれた。

「さぁ、こ〜い!」ノックを待つ高校球児のようにおのおのやる気を出している。レシピ等に書かれているものの他に「酢胡椒」もベンチ入りさせてみた。

グラスは「スプリングバレー」だが、中身は「一番搾りプレミアム」だ。初めてのお客様(ピェンロー様)を迎えるのだから、今日はプレミアム気分だ。

いざ、実食!まずはお塩で。
鶏肉、豚肉、干し椎茸、昆布、ごま油、さまざまな旨味に支えられた出汁がいい。あったまる!
あれ、白菜は?(ここにいるよ…)
あんなにいっぱい入れたのに!(ここにいるよ…)

鍋に入る頃は、あんなに自己主張していた白菜が
全く「オレオレ!」と主張してこないのだ。なのに溶ろけるように甘く、そこにいることを教えてくれる。

時間をかけてコトコトコトコト愛情を注ぐことで
白菜はこんなに自己顕示欲を抑え、謙虚に気高く育つのか。うぅ〜!ピェンロー奥深し!

私はその後、七味、味ぽん、かんずり、ラー油、柚子胡椒、酢胡椒、根こぶ味噌などありとあらゆる控え選手たちに経験を積ませるべく、味変を楽しんだ。どれもそれぞれの面白さがあって、まさに多様性を受け入れる「ピェンロー様」の懐の深さを感じずにはいられない。

今日はこれから残りをおじやにして食べる。
「それも良かろう」コンロの上に乗っているピェンロー様の声が聞こえる。

これから寒くなる時期に心身を温め、食の楽しさを味わわせてくれる「ピェンロー」。そんな新しい鍋に出会わせてくれた花丸恵さんに感謝である。

花丸恵さんの素朴で、滑稽で、どこか懐かしくて、温かいエッセイがとても好きでよく読ませていただいています。夜中でも、独特の滑稽さがツボにハマって一人で声を出して笑ってしまうこともあります。ほっこりとした安心に包まれる読後感。殺伐とした毎日の中で疲れている方にオススメのクリエイターです。

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