つぶやき 香港

 ふだんとまったく違うことを書く。

 香港出身で、20年以上前に米国へ移住した友人が来日している。突然電話が来てバタバタと会う約束をとりつけた。

 前回会ったのは10年近く前。その後とくにメールやSNSのやりとりもしていなかったので、積もる話がてんこ盛り。再会直後のお茶の時間、買物のつきあい、遅い夕食としゃべりっぱなしだった。

 彼女に会うにあたり、どうしても聴いておきたいことがあった。香港には行っているか、いまの香港の状況をどう思うか、を。

 仕事も家庭もアメリカにある彼女が香港へ帰る機会は少ない。きょうだい、親戚や友人の多くは香港にいる。連絡は取りあっているが、連絡の際、あるいは帰ったときの話題にはかなり気を使うという。きょうだいと話していて言論や表現の自由に触れると、
「外からの視点で判断しないで。香港の生活は十分いい。この先も問題ないから心配しないで」
と言われるらしい。

 香港人らしく明るくパワフルに話していたトーンをぐっと下げて 
「お姉ちゃんは(香港から)出て行った人だから、って言われるの」
と言うと、涙ぐんだ。

 遠慮がちに
「香港に帰って住むことはないよね?」
と聞くと、ぽつりと
「もう昔の香港じゃないから」

 彼女はこう分析する。香港は2020年の「国家安全法」で変化したわけではなく、(1999年の)中国返還以降、いろいろな面でじわじわと制限や制約を受け変わってきた。変化が緩慢だったから住んでいる人が気づかないだけ。情報も制限を受けていて、「中にいる人」は外から見たときの変化や違和感がわからない。そもそも誰もが政治や法律に関心があるわけでもない。

 そう。ほとんどの人は生活や目の前のことを優先せざるを得ない。現在や、近い未来の生活が保障されれば、悪くないと思う人もいるだろう。でも。
「そうだね。わたしも、また香港へ行こうとは思わないよ。友だちと連絡とるのですら、いろいろ考えてしまうし」
とわたし。

 自由で、パワフルで、猥雑で、洗練されていた香港から彼女を、わたしを遠ざけてしまったものはなにか。考え続けたほうがいいと思っている。

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