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「個人的なことは政治的なこと」個人のモヤモヤをソーシャルにつなげよう:ソーシャルドリンクスvol.1イベントレポート

 「何か社会的によい活動をしていきたいが、どんな風にスタートしたらよいか分からない」「ほかの活動者はどんな風にはじめたのだろうか」あなたはこんなことを思ったことはありますか?

 たとえば私ならこんな経験があります。私自身ひとり親で、ひとり親ならではの苦労を知るようになり、同じひとり親の人たちをエンパワーメントするような活動をしたいと思うようになった。

 しかし、どんな風にスタートし、活動を継続していったらよいのか分からない。過去に一度実際に活動をはじめてみたはいいけれど、活動の継続がむずかしく、挫折した。今でもひとり親の人たちをエンパワーメントするような活動をしたいという気持ちは持ち続けている。

 あるいは「障がい者」だったり、「女性」だったり、「子どもたち」だったり、対象者は人によってさまざまかもしれません。

 8月4日に行われた宮崎ソーシャルフェス主催「ミヤザキソーシャルドリンクスvol.1 ソーシャル肴にワイワイナイト ーソーシャルってナニ?ー」では、延岡でNPO法人自立生活支援「延岡ほほえみの会」を立ち上げた塩月雅代さんと、生理の貧困の解消を目指す任意団体「ハウリング」を立ち上げた原田伊久美さんが、自身の立ち上げの体験について語りました。

 司会は社会課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスコンサルタント、山中はるなさんが務めました。

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当日の様子はリンクからご覧ください。

宮崎ソーシャルフェスとは

 「何か飲みながら気軽に聞いていただけたらうれしいです」と山中さんの音頭で乾杯から始まったイベント。まずは主催の宮崎ソーシャルフェスの代表を務める原田さんから会の趣旨説明がなされました。

原田さん:「宮崎ソーシャルフェスは障がい者や子ども、女性や性的少数者といった社会的マイノリティのエンパワーメントを目指し、宮崎県、特に県北を住みやすいまちにしていこうと集まった女性たち数名で企画したイベントです」
原田さん:「普段はそれぞれの専門分野で活動する者同士がつながると何が起きるかというと、例えば何か問題を抱えた人に出会った時にメンバーそれぞれが持つ多彩な引き出しを貸し合うことができます」

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原田さん:「メンバーのひとり、まいこさんはお金のスペシャリスト。もえさんはいろいろなマイノリティの体験や先生の経験があったり。ボイストレーナーもいますし、司書さん、大学生もいます」
原田さん:「そして今日登壇している塩月さん、私、司会の山中さんのいろんな引き出しが合わさることによって引き出しが増えると、豊かなサポートが実現します。多くの選択肢を選ぶことができたら、よりその人に合った支援につながっていくんじゃないかなぁと私たちは考えています」
原田さん:「横のつながりを作ることで多くのサポートを実現できると考え、宮崎ソーシャルフェスの開催を12月に目指しています。12月のリアルイベントの開催を目指して今日のようなオンラインのイベントを月に1回していけたらと思って今日の第1回目となります」

 一通り会の説明が終わると、「イラストがいいね」と賛辞をおくる山中さん。京都でのまちづくりの仕事など、ご経歴を話されたあと、ご自身のことについて次のように話してくださいました。

山中さん:「延岡ではフリーで、社会的な課題を解決しようとしている人たちのビジネスやボランティアやNPOなど、世の中を良くしようとしている人のお手伝いができたらいいなあと思ってコンサルとか企業支援の仕事をしています」

 つづいて塩月さんと原田さんが自己紹介を行い、本題に入ってゆきました。

相手を思いやる気持ちはどの職種にも通ずる 未経験から福祉を志して

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 「どういう思いでスタートしたの? モヤモヤをおしえて!」この問いを設定した司会の山中さんがその背景を語ります。

山中さん:「なんでこの問いを考えたかっていうと、たとえば延岡で生活に困ってそうな人を見たり、自分の知り合いが困ったりしたとき、個人的にその人を助けるというのはあっても、NPOとしてやらなあかんことないじゃないですか」
山中さん:「ほかには原田さんやったら自分の子どもに性教育をしたら済む話という風に考える親御さんが多いだろうし。生理の貧困も、そういうこともあったけど、今は幸せやしよかったって思う人だってたくさんいると思うんやけど、そうじゃなく2人は一歩を踏み出してて」
山中さん:「そこらへんを『なんでなん?』『どういう思いやったん?』っていうのを聞きたいのと、もしかしたらモヤモヤをたくさん抱えてたから、そのモヤモヤに押し出される形で動いたのだろうかとか、そこらへんの話を二人から聞けたらと思います」

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塩月さん:「私は両親にすごく大切に育ててもらって、どちらかというと何不自由なく育ってきたんですけれど、そういう私でも福祉のことを考えてもいいんじゃないかなと思って。だから周りから『え、なんでまさよっぴが』って言われるけれども、『え、なんで?』と逆に質問返しをします」
塩月さん:「あとは子どもの頃、周りの友だちの家が生活保護を受給していたり、宮崎は特に離婚率が高いんですけれども、シングルマザーで育ったという友だちが多かったり。私の周りの大人たちに『あそこの家庭は生活保護をもらってるから遊ばない方がいいよ』と言われることもあったんですよね」
塩月さん:「私の中でそれがモヤモヤ。『なんで?別にその子が悪くてその家庭が生活保護もらってるわけでもないし、その子が悪くて高校に進学できないわけでもないし』っていうモヤモヤが学生の頃からあって」
塩月:「大人になって宮崎でこういう活動があるっていうのを知ったときにやりたいなって思ったし、すんなりと私の中でこういった活動するっていうことが入ってきたっていうのがありました」

 塩月さんが話すのを参加者のみなさん一同食い入るように見つめます。

塩月さん:「15年間接客業をしていました。レストランの接客だったりウェディングプランナーだったり、その人を思ってサービスをする。新郎新婦を思って結婚式を作り上げていく。今やってるNPOは相談に来てる人を思ってその人に合った支援を考える」
塩月さん:「どういうことがこの人には必要なんだというのを考えることはどんな職種でも一緒なのかな、相手を思いやるその気持ちさえあれば誰でもできるんじゃないかなと思って。だからこそこういう支援の横のつながりというのも大事ですし、どんな職種でもこういうことに関わっていいんじゃないかなって私は思います」

 これを受けて山中さんが思わず「好きです」と発すると、チャット欄には次々と「好きです」「私も」「大好きです」と書き込まれ、この日いちばんの盛り上がりを見せました。

 つづけてNPO法人を立ち上げると決めたきっかけについて、塩月さんは次のように語ります。

塩月さん:「私はただ単純にやりたいなと思ったのでやっています。延岡ほほえみの会の名前は『ほほえみ』とついているけれど、人を笑顔にすることがすごく好きなので。その手段はいろいろあっていいんじゃないかなと思っています」

 以前行っていたサービス職と今取り組んでいるNPOも、相手を思いやるとか笑顔にするという意味ではつながってるということ。そんな塩月さんの話に参加者一同感銘を受けました。

個人的なことは政治的なこと 不妊をきっかけに社会とつながった

 一方の原田さんは今の正義感の強い活動からは予想できない意外な話を聞かせてくれます。

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原田さん:「私はすっごくちゃらんぽらんに生きてたんですよ、若いとき。なんなら自分だけ良ければいいと本気で思ってて」
原田さん:「だけどあるとき不妊ではじめて大きい挫折を味わったときに、『あれ、私なんで子ども欲しいんだろう』と思って。結婚して子供を産むのが当たり前の世界、女に生まれたからには結婚して子供を持って一人前に思われるみたいなに私ハマろうとしているということにハッと気づいて」
原田さん:「子どもができたときに自分も発達障害だって分かって、道からすごく外れていることに気づいたんです。一生懸命王道を歩こうとしていたけど、全然王道を歩けていないし、別に歩く必要もないし。子供に障害があって私に障害があって、なんであんなに王道にこだわってたのかなーと」
原田さん:「そんなときに東京医科大の減点の問題、女性だけが実は点数を引かれてたとか、自分には見えてなかった女性差別がいっぱい見えてきて。この間の森さんのもですけど、女は話が長いとか」
原田さん:「思い返せばお正月は家の女性たちがみんな台所で働いてて、男たちは飲んでてね。私も皿洗いさせられてて、男のいとこたちは遊んでるんですよ」
原田さん:「『なんでこんなことが当たり前だと思ってたんだろう。あー娘にこんな思いさせたくないなぁ』と思ってきたら、だんだん生理用品とかも、なんでこれ非課税じゃないんだとかいろんなものが点と点がつながってきて腹が立ってきて、これは許しがたいぞって思ったときに、『あれ、私生理用品足りてなかったな』っていうことを思い出すわけですよ」

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原田さん:「ああこんな想いをやっぱり今のこれからの子どもたちにさせちゃいけないなぁじゃあ寄付しようかなぁ。いやでもちょっと寄付したぐらいではこれ埋まらないよなぁとかいろんなことが考えてたら、それこそ自分の周りだけをどうこうしていればいいという話じゃないのかな。やっぱ知識全体をあげていって、みんなでこれおかしいよねって声を上げてもらって国とか市町村が動いてくれるのがベストだなぁと思いました」
原田さん:「それまではほんとに自由。何にも考えてなかった。楽しいことしか考えてなかったし、貯金とかも考えたことないし、みんなえらいなぁちゃんとしてんなーみたいな」

 生理の貧困解消に向けて活動をしたり、正義感の強い面を普段SNSでも見せてくれている原田さん。何も考えてなかったとは意外でした。同じように感じた司会の山中さんはこう話します。

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山中さん:「あれかなぁ。自分と社会がつながった感じ?」
原田さん:「ああそうだね。私以外の人達にももちろん幸せになって欲しいなって」
山中さん:「フェミニストの好きな言葉で『個人的なことは政治的なこと』っていうのがあるんやけど、たとえば女性だけが正月やお盆にごはんを作って男の人は飲んで、みたいなことがどこの家でもある風景やと思ってて」
山中さん:「私はちっちゃいときからそれがめっちゃくちゃ嫌で、絶対結婚なんてするもんかって子どものときから思ってました。個人的に嫌やなって思うことが実は社会的な問題ですよね。不妊のことにしろ、生理用品のことにしろ」

 みなさん個人的に嫌だなと感じていることは、自分だけの問題だと思って我慢してしまうかもしれません。しかし実はそこにこそ社会を変えていく、より良くしていくための種がある。原田さんの話はそういう気づきをくれました。

 塩月さんと原田さん、お二人の話からたくさんの気づきをもらえた本イベントは、大盛況のうちに幕を閉じました。

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自分なりのソーシャルとの関わり方は何だろう?

 お二人の話を聞いて、まずひとり親になって感じた違和感や味わったつらさを忘れずにいようと思いました。このモヤモヤがいつの日か形を変えてだれかをエンパワーメントする活動につながっていくのかもしれません。

 直接的にひとり親をエンパワーメントする活動ができなくたって、今私のできることで誰かを笑顔にすることだってできるかもしれません。

 塩月さんと原田さん、お二人の話から、私は自分自身がエンパワーメントしてもらったような心持ちになりました。

ソーシャルドリンクスに興味を持ってくださった方へ

 この記事でお伝えできたのは、本イベントのごく一部です。「イベントの様子をもっと詳しく知りたい」という方は当日のアーカイブ動画をご視聴ください。

 またFacebookページ「宮崎ソーシャルフェス」に「いいね!」してくださると、今後のイベント情報などをお届けします。

 直近では8月22日に「未来の生理について話そう!」というイベントが開催されます。

 ご参加、「いいね!」、お待ちしています!


執筆:黒木萌


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