まちづくりの縮図
釜石大観音仲見世で、最初にリノベーションしたシェアオフィスco-ba kamaishi marudaiの裏側は斜面となっていて、その上に空き地となっている平らな空間がある。
その空き地には、コンクリートの階段があって、登っていくと数軒の住宅がならぶ位置指定道路と思われる道路があり(未確認なので違うかもしれないが)、その先に国道45号線がある。
また、その空き地には仲見世と大観音の間にある、ちょっとした広場から、坂を上ってアクセスすることが出来る。
co-ba kamaishi marudaiからその広場までは、2軒の建物の前を通り過ぎることになる。
建物の表側から大観音のほうへ進んで、広場を通って、裏側の上の空き地にアクセスすることが出来るという位置関係となる。
直線距離は近いが、遠回りをしないとたどり着けない。
その裏の斜面には細い竹が生い茂っており、最初はゴミなども散乱していた(この写真は隣の建物の裏になるが、これに似た状況だった)。
薄暗く、見た目も悪い場所だった。
ゴミは片付けたが、竹と植物の残骸のようなものが堆積し、見た目や環境をよくするなど思いもよらないような状況だった。
でもある時、ここに上の空き地に、一直線に上ることが出来る階段を作ったら、環境が劇的に変化するのではないかと思いついた。
この発想は、密集して暗く不衛生な旧市街地に、計画道路を通して改善するという、現代の区画整理の手法から来ている。
また、行き止まりを通り抜けられるようにすると、澱みがちな空気が一掃できるような気もした。
さらに、時々、都会からバスでやってくる訪問者が、帰りにバス停に行くときの近道にもなるだろう。
ただし、重機を入れれば簡単かもしれないが、お金はない。
あくまでも人力で作るしかないのだが、山道にあるような簡易な階段なら、作れるのではないかと思った。
ネットで調べると、20cmぐらいの幅の板を、短めの木の杭2本で押さえるという、簡単な作り方が見つかった。
さっそく試しに材料を買ってきてやってみた。
最初の3段ぐらいは、比較的簡単にできた。
ところが、4段目、5段目になるに従って、これはなかなかの難事業であることがわかった。
1つは傾斜がきつくなることで、作業がしにくくなった。
もう1つが最大の難点、竹の根だ。
地上に見えている竹は、のこぎりで簡単に切れるのだけど、地面に隠れている部分が問題なのだ。
階段をつくるためには一部を掘って、その土を木の板を立てたところに盛る、スケールは違うが、宅地造成の手法と同じだ。
従って、そんなに深く掘る必要はないのだけど、竹の根があると、それも思ったより簡単ではない。
適当なところで切って埋めてしまうという発想もあるが、そううまくいかないケースが多く、根から引っこ抜くのが一番すっきりする。
しかし斜面なので、スコップも使いにくく、1本の竹を抜くだけでも、なかなか大変だった。
いろいろな農耕、園芸用の道具を探したり、試したりしたが、竹の根を引っこ抜くのに適した道具は見つからなかった。
地道に1段1段作っていけば、そのうち開通するだろうと思ったが、1段作るのも一苦労で、しかも夏になってきていたので、少しでも作業をすると汗みどろの泥だらけ。
会員やコミュニティマネージャーも、これから突入する竹やぶを眺めて、口には出さないが「無理じゃないですか?」という顔をしていた。
結局、5段作ったところで、仕事などが忙しくなったこともあり、一旦休止した。
このまま頓挫するかに見えたこの計画だったが、冬になったころに強力な援軍が現れた。
震災後から釜石に定期的に通ってきている、ある企業のボランティアの人たちだ。
これまでも仲見世や、それ以外の場所で、さまざまな作業を手伝ってもらっていた。
その彼らから、12月に釜石に行くのでなにか手伝って欲しいことはあるかと、僕のほうに問い合わせがあったのだ。
彼らの訪問の仕方は、現地でソーシャルな活動をしている団体に声をかけ、複数の団体の手伝いをグループに分かれたり、時間を区切ったりしてするというスタイルだ。
その一つとして、仲見世の再生に取り組む僕らのグループが定着しつつあった。
民営のシェアオフィスの外構工事という、やや私的な内容ではあったが「それでもいい」ということだったので、階段づくりを手伝ってもらうことにした。
しばらくほおってあった作業で、しかも竹をとりのぞく方法が確立されていなかったので、再度、道具を探しに行き、鋭く重い鉄部を備えた、鍬のようなものを買ってきた。
試しに使ったところ、これまでのスコップのようなものより、だいぶ短い時間で竹を取り除くことが出来た。
段も1段増やして、6段になった。
冬になると植物の勢いも弱まり、暑くもないので動きやすい。
このやり方を実演して、後は出来るだけやってもらうことにした。
人数が集まった時のマンパワーというのはすごいもので、1日にして竹やぶを切り開き、やや間隔が広いながら階段が上までつながり、曲がりなりにも上り下り出来るようになった。
竹を切る人、運ぶ人、草を刈る人、階段を作る人、それも上からと下から作るので、驚くほど早かった。
翌日、段の間隔が広いところを、段を追加したり、調整したりして、今のような形が出来上がった。
これは劇的な変化で、いろいろなことが起こった。
まず一つは、人間の側で、シェアオフィスの会員が晴れた日に、上の広場に行って、パソコンで作業をしはじめた。
そして、近所の人が通るようになった。
ここでは、人の敷地を通ってはいけないという意識が薄い。
建物と建物の間の路地は、自由に行き来できるという暗黙の了解があるのだ。
そんなわけで、近所の人も通る。
植物の生態にも変化があった。
竹がなくなったところから、あじさいがどんどん生え始めた。
もともと、多少、あじさいは生えていたのだけど、写真のところには全くなかった。
植物にはなわばり争いのようなものがある。
植物の「遷移(せんい)」と呼ばれる現象で、空き地には最初に草が生えるが、次第にすすきや、セイダカアワダチソウなどの丈のある草が生え、最終的には木が生えて森になるという。
木が生えると、草はあまり生えなくなる。
竹はどちらかというと、草の部類に入るようだが、草の中では強くて木の侵入を阻止することもある。
管理されなくなってどれぐらいになるのかわからないが、これまでは竹が覇権を握っていたのだ。
その竹が勢力を弱めたことで、前からいたあじさいの勢力が再興してきたというわけなのだ。
さらに気がついたのだけど、観葉植物としても定番の、アイビーが目に付くようになった。
おそらく、どちらもここの住人が植えたものなのだろう。
植物は意外にしぶとい。
おそらく15年以上(前の建物オーナーであり、おみやげ屋マルダイの事業主が亡くなった時)も前に作られた庭の痕跡がよみがえってくるのは、タイムカプセル的というか、ちょっと不思議な感覚だ。
もう一つ変わった…というより気がついたというほうが正確だが、この階段の脇には木が生えていたのだ。
これは落葉樹で、春になると新緑をつける。
今まで竹にまぎれて気がつかなかったのだけど、竹を切ったことで目に入るようになった。
この木は、建物から見ると南側にあり、夏は適度な木陰を作り、冬は葉を落として、日を遮らない。
たぶん、そのように意図されて植えられたものだったのだ。
僕自身の意識も変わった。
前までは、単なる裏スペースであり、美観とは無縁だった空間が、明るくなって「もっと良くできるかも」と思うようになった。
そこで、思いついたのが、階段の両脇に花が咲かせてみてはどうかということだ。
手始めに登り切ったところにコスモスの種をまき、斜面の中腹にも花の種をまいたり、球根を植えたりした。
実は植物を育てるのは初めてだったのだけど、ネットで調べながら、けっこううまく育っていた。
でもある時、この辺りを闊歩していた、鹿がコスモスの芽を食べたのを始まりとして、鹿の被害に遭うようになったので、こちらは思うように進んでいない。
草取りは植物を育てるかたわら、毎日少しずつしている。
草取りも除去する植物と、残す植物を選択することで、景観がよくなってくることもある。
まだまだガーデニングといえるようなレベルではないが、少なくとも去年とは見違えるようになった。
2階の窓から見える景色も、だいぶ改善された。
これからも少しずつ、改善していくことで、シェアオフィスの価値も高めていけるのではないかと思っている。
なんとなく、まちづくりの縮図という感じもする。
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