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おひさまたちと過ごした3年間

彼らとの出会いは、今でも忘れられない。

留年と休学を経て、大学に復学した5年目。学年の進行上ではまだ2年生だった私は、3つ下の子たちのクラスに交ぜてもらうことが決まっていた。

最初の授業に向かう足取りは重かった。3つも上の人間が突然加わって、どう思われるんだろう…?きっと私が一番ペルシア語できないし…なんなんだこの人ってなるだろうな…

正直、怖かった。たとえ針のむしろのような状況でも頑張って来なければ、と覚悟はしていたものの、ドアノブにかける手が震えた。最初が肝心、笑顔で元気に行くしかない、と心を決め、思いきってドアを開けた。

「はじめまして!今日から一緒に授業受けます、5回生のさかえみやこといいます!」

おそるおそる教室を見回す。すると、初めきょとんとしていた2年生たちがふわっと笑った。

「そうなんですね~よろしくお願いします!」

……え?ええ?そんなあっさり受け入れちゃうの?3つ上なのに2年生だよ?どう考えても普通じゃないでしょう?

予想外の反応に戸惑う私をよそに、前の年に知り合っていた子が「みやこさん、ここ座ります?」、別のある子は「去年新歓で会いましたよね~」、また別のある子は「私、◯◯っていいます!」…皆口々に話しかけてくる。

こうして私は、彼らの新しい同級生として思いがけずあたたかく迎えられた。

あれから、もうすぐ3年が経つ。

こんなことがあった。

学期が始まってほどなくして、会話の授業で出された課題が、二人一組でのプレゼンテーション。聞いた瞬間、うわぁどうしよう…とおろおろした。自分と組む相手にあまりに申し訳なくて。

しかし、私と組むことになった子は何でもないような顔で名乗り、よろしくお願いします、と頭を下げた。

打ち合わせは「ええと、ご趣味はなんですか…?」状態から始まった。それでも彼は面倒な素振りを少しも見せることなく、私のとんでもなくひどいペルシア語力に驚くことも苛立つこともなく、私と歩調を合わせつつ、淡々と引っ張ってくれた。

発表の日。私個人はお世辞にもいい出来ではなかったのだが、彼のがんばりで、ネイティブの先生から「面白かったわ」という言葉をもらった。

何度も、ありがとう、いえこちらこそ、と二人で頭を下げ合ったあの日、彼だけでなく、他の同級生との距離も、少し近くなった気がした。

こんなこともあった。

2年生の秋は語劇(※私の大学で、学校祭の時に主に2年生がそれぞれの専攻語で上演する劇)がある。

人数の少ない専攻は大変だ。そういう事情もあったのかもしれないが、私もさらりと照明係を任されていた。

素直に嬉しかった。仲間に加えてもらえたことが。この練習から本番まで過ごした日々は、 自分の大学生活での中でも特別に楽しい時間だった。

当時の気持ちを、本番を終えて少し経った頃に日記に綴っていた。少々長くなるが、一部をそっと持ってきてみる。

ひとりひとり出来がよく、なおかつ仲間への思いやりにあふれた明るい2年生たちがまぶしくて。いいなぁ…って言葉を何回も飲み込んでた。まぶしすぎて、羨ましすぎて、時々胸がちくってしながら、でも明るい彼らと一緒に過ごす時はとっても楽しかった。

1か月が経って、2か月が経って。

だんだん練習に行く時の引け目のようなものを感じなくなった。

「みんな」のひとりひとりと話すようになった。それぞれと、いい友人になれそうだなと思えた。

(中略)

嬉しかった。

授業を休まなくなった。

あんなに起きれなかった1限も、語劇練習ならなぜだかけっこう行けた。みんなに会うのが楽しみでしかたなくなった。

予習がちゃんと終わらなくて昔なら休んでしまっていたような時さえも、みんなに会いたい気持ちが勝った。ずっと逃げてばかりだった専攻語の授業も、みんなとならがんばれるような気がした。

授業中も、毎日いっぱい笑った。

学校ってこんなに楽しかったんだ、と思った。

めいめいが努力家で、仲間思いで、チームワークが抜群な彼らの劇が大成功に終わったことは、言うまでもない。

その一部を担えたことが心から誇らしく、嬉しく、幸せだった。今までほとんど考えたことがなかった「外大に来れてよかったかもしれない」という気持ちが、心の片隅にほんのり灯っていた。

語劇を経てから学内で話すだけでなく、一緒に飲みに行きませんか?と声をかけられることが出てきた。二人でごはんに行きたいです!遊びに行きたいです!と言ってくれる子たちが現れた。春休みに同期みんなで旅行をしよう、と相談している様子を微笑ましく見ていたら、みやこさんも数に入ってますからね!と言われた。

毎度、本当にいいのかな?とためらいながらも、彼らと一緒に過ごしたい気持ちが勝り、好意に甘えた。いつも彼らは当たり前のように笑顔で迎えてくれた。

次の夏には、全員でのバーベキューに、もうごく自然に私もいた。いつの間にか、ふんわりと、彼らの代のひとりにしてもらっていた。本当に、自分はなぜこんなにも恵まれているんだろう、と思った。

そしてこの3年間、ただ幸せだっただけでなく、年下の彼らからたくさんのことを教わった。

仲間を素直にすごいねと賞賛すること。仲間のがんばりを心から応援し、その成功を一緒に喜ぶこと。壁はみんなで笑って励まし合って乗り越えること。素敵だと思ったら素敵だと口に出すこと。大好きな人に大好きだと、大切だと伝えること。

今まで照れくさくて言えなかったような気持ちをちゃんと言葉にしてみると、もぞもぞくすぐったくて、でも相手の嬉しそうな顔を見られると、心がほこほこした。

大学構内で彼らとすれ違う時、どの子もぱっと顔を輝かせて、手を振ってくれたり会釈してくれたりする。私と一緒にいる知人が、なんでそんなに仲がいいの、すごいねと言う。

そんな時いつも私は嬉しくなって、ううん、私がすごいんじゃないよ、あの子たちがすごいの、と自慢気に胸を張って笑うのだ。

カーテンを閉めきった部屋でひっそり膝を抱えていた私に、きらきらと降り注いだ光。3年間ずっと私の心を、ぽかぽかとあたためてくれた光。

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