「人権侵犯」を認定された杉田水脈氏が自民党環境部会長代理に ―人権と環境は密接にリンクする
自民党は、札幌法務局から「人権侵犯」を認定されたばかりの杉田水脈衆院議員を党環境部会長代理に起用した。自民党の政務調査会にはほぼ省庁ごとに14の部会があるが、日本の環境政策は日本が不名誉な「化石賞」を受賞したように諸外国から特に注目されている。昨年開催されたカタールのサッカーワールドカップに欧米などから非難や反対の声が上がったのは、カタールの過酷な外国人労働をはじめとする人権と、大会開催中に二酸化炭素を多く排出するという環境問題だった。
杉田氏は「人権侵犯」を認定された発言などで昨年末に総務政務官が事実上更迭されたばかりで、議員としてもふさわしくない人物をどうして党の役職に就けるのか、この人事は自民党が国民に決して胸を張れるものではない。人権侵犯の認定を受けた後、杉田氏は何の説明も釈明も行わず、真摯に反省しているかどうかも定かではない。
人権と環境は表裏一体の、相互にリンクする問題でもある。日本では戦後、水俣病、第二水俣病(新潟県阿賀野川流域)、イタイイタイ病(富山県神通川流域)、四日市ぜんそく(三重県四日市市)という四大公害病が発生したが、政府は企業利益を優先し、被害を拡大させた。たとえば認定された水俣病患者は2000人強だが、未認定の人を含めれば2万人を超え、さらに差別を恐れて認定審査の申請も行わなかった未申請患者もいる。
中東のパレスチナでは、2007年以来イスラエルの経済封鎖を受けるガザ地区は環境問題が深刻になっている。ガザの住民たちは、ガザの地下にある帯水層を利用しているが、その帯水層は海水や化学物質によって汚染されるようになっている。またイスラエルはガザの水道管、井戸、その他の水に関わるインフラを爆撃、破壊し、さらにパレスチナ人たちはイスラエルのガザ封鎖によって、水道インフラを修理する部品も調達できず、また海水淡水化プラントも建設できないでいる。飲料水が汚染されているために、ガザではサルモネラ感染症や腸チフスなどの疾患に罹っている。
中村哲医師が活動していたアフガニスタン・ダラエ・ヌール周辺では子供たちがコレラや脱水症で次々と亡くなっていったが、その原因を中村医師たちが調査すると、水不足で食器が洗えないとか、汚い水を飲むなど干ばつによる水不足が原因であることが判明した。2000年の大干ばつでアフガニスタン東部全域では農業の収穫も望めなくなったと中村医師の著書『医者井戸を掘る』では語られ、中村医師は井戸の掘削を進めていった。
作家の井上ひさし氏は山形県立置賜農業高校の講演の中で、中村医師の井戸掘りに現地の人がいかに感謝していたか次のようなエピソードを紹介している。
「井戸掘り事業は危険と隣り合わせの作業だった。ある日、井戸の滑車に跳ね飛ばされて現地のアフガン人が井戸の底に落ちて亡くなってしまった。中村医師たちがその作業員の父親にお悔やみを述べに行くと、父親は『こんなところに自ら入って助けてくれる外国人はいませんでした。息子はあなたたちと共にはたらき、村を救う仕事で死んだのですから本望です。 全てはアッラーの御心です。この村には、大昔から井戸がなかったのです。みな薄汚い水を飲み、わずかな小川だけが命綱でした。その小川が涸れたとき、あなたたちが現れたのです。人も家畜も助かりました。これは神の奇跡です。』と述べた。(『医者井戸を掘る』抜粋、224~225頁)
過日も紹介した田中正造も足尾鉱毒問題を人権問題として捉え、人々の生命や権利を守るために尽力したが、田中正造や中村哲医師のような発想や配慮も、また心情も差別発言を繰り返す杉田氏にはないに違いない。田中正造は「弱者のために強者に立ち向かえ。」と説いたが、弱者を揶揄するような人物に環境部会の要職に就く資格があるとは思えない。
日本は明治以来、「蝦夷地」と呼ばれるアイヌの土地に和人(アイヌ以外の日本人)が入植、開拓を行い、漁撈、狩猟、農業を中心として自然の恵みを享受していたアイヌの人々独自の生活や文化を奪っていった。自らの伝統的な生活環境を奪われ、人権を侵害されたマイノリティの人々の苦難の歴史にも注意や関心も及ばない人物が自民党の環境部会長代理に就任した。
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