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日本政府は「イラン人が『親日』になった理由」に応えているか?

 若宮總氏の「イラン人が『親日』になった理由 なぜアメリカでもイギリスでも中国でもなく、日本人を意識するのか」(JBpress『イランの地下世界』(若宮總著、角川新書)の一部を抜粋・再編集)という記事が目を引いた。若宮氏は留学や仕事などで、長年イランで生活してきた人だ。若宮氏は欧米も、近隣諸国も嫌いなイランが好きな国は「噓偽りなく、主観を排して、客観的に、そして公平無私な立場で言わせてもらうが、答えはズバリ、日本である。」と書いている。そして若宮氏はイランの言語であるペルシア語のことわざ「離れていればこその友情」(ドゥーリ・オ・ドゥースティ)を引用しながら、適度に離れていたほうが、友情が長続きすると述べている。

 私もイランの親日感情についていろんなところで書いてきたが、歴史的にはロシア帝国主義に苦しめられたイラン人が日露戦争でアジアの小国日本がロシアに勝利したこと、イランが1950年代に石油産業を国有化した際に日本の出光が、イギリスなどがイランを経済封鎖する中で、ペルシア湾にまでタンカーを送り、原油を買い付けに行ったことなどがある。日露戦争当時、イランもガージャール朝という君主制の国だったが、憲法をもたないロシア帝国に対する日本の勝利の秘訣が立憲君主制にあるとイラン人は考え、日本の明治憲法のような憲法制定を求める立憲革命運動を起こした。

 イランでは1953年8月に民主的に選ばれ、イランの石油産業を国有化したモサッデグ首相の政権がアメリカCIA(中央情報局)やイギリスMI6の策動によるクーデターによって倒され、国王の弾圧装置の秘密警察SAVAKをCIAが支援したなどのアメリカに対する苦い感情がある。日本はそのアメリカと戦争で戦い敗れながらも、目覚ましい復興を遂げ、彼らが使う家電やオーディオなどは日本製品がイランの市場を独占していた時代があった。

 イラン・イラク戦争が終わった頃、テヘラン大学前の本の青空市をのぞいていたら、イラン人の中年男性がやってきて、「アメリカは日本のヒロシマ・ナガサキに原爆を落としただろう?アメリカは本当にひどいことをする。」と言われたことがあった。この国でも戦争で廃墟になりながら、目覚ましい復興を遂げた日本に対する敬意があったが、その感情はイラクとの8年にわたる戦争や、それに伴う経済的困難を経ていっそう強まっていたのだろう。

おしん・人気 漫画 https://getnews.jp/archives/2181124/gate

 テヘラン大学前の書店街はさながら東京の神保町のようになっているが、その中に時々小津安二郎作品などを研究した書籍を見つけることがある。映画好きのイラン人は日本の黒澤明や小津安二郎などの作品に魅かれる。黒澤作品にイラン人も大好きな義侠心を、また小津作品にはやはりイラン人と共通する家族愛を見るのだろう。詩作をこよなく愛するイラン人と、俳句が愛好される日本とでは詩情という点でも共通性がある。翻訳家で、イラン映画のコーディネーターのショーレ・ゴルパリアンさんは、「日本人は礼儀正しいし、心優しい人が多い。日本でいう『謙遜』とか『建前』『義理』といった概念はイラン人にもあるんです。相手を持ち上げて自分は遠慮するとか。年寄りに対する尊敬の念とか。だから日本の人たちはイラン映画をよく理解してくれますし、イランでも小津安二郎や黒澤明の映画や、『おしん』とか『はね駒』といったテレビドラマの人気が高いんです」と語っている。(ショーレ・ゴルパリアン「戦車のボディに日本の国旗は、似合いませんね。」 

_9.11の同時多発テロ。イラク戦争―そして日本は自衛隊をイラクに派遣。その姿はイランの人たちに衝撃を与えたようだ。 「今まで何かを造りにきてくれた日本が、自衛隊を派遣したことで、今度は何かを壊しにくると思ってしまいます。それは私たちの日本人に対するイメージとあまりにもかけ離れていたから信じられないんですよ。私がイランに帰ったとき、みんな私に聞くんです。何で戦車のボディに日本の国旗がついているんですか、って。確かに似合わない。すごく」 https://info.linkclub.or.jp/nl/2004_11/life.html

https://info.linkclub.or.jp/nl/2004_11/life.html

4月、イラン革命防衛隊の司令官がシリアのイラン大使館関連施設が爆撃されて殺害され、イランがイスラエルに報復攻撃すると、上川外相はイランのアブドラヒアン外相と会談して、「中東情勢をさらに一層悪化させるものだ。このようなエスカレーションを強く非難する」と述べたが、同様な非難の言葉はイランの外交施設を先に攻撃して破壊したイスラエルに対しても向けられるべきだった。岸田政権はアメリカの同盟国であるイスラエルの国際法違反の行為を強く非難することがなく、不甲斐ない姿勢に終始している。対米関係ばかりを重視する、公平を欠く外交はせっかくの親日感情を損ない、紛争の調停などの国際貢献ができなくなるということがわからないのだろうか。


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