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「社会に異議 誰かが言わないと」 ―独裁政治に近い閣議決定の使い方ー赤川次郎氏

 7月22日の毎日新聞、赤川次郎氏へのインタビュー記事「社会に異議 誰かが言わないと」の中で、赤川氏は安倍政権の政治を評価する中で「閣議決定が大きな権限を持つようになってしまった。閣議決定で方向性を決めてしまい、国会は数の力で押し切ってしまう。」と語り、「国会で議論しなければならないことを、あらかじめ閣議決定して、国会では形だけ『議論はやりました』と済ませてしまう。このような閣議決定の使い方は独裁政治に近いと思っています。」と述べている。

 特に昨年は「反撃能力」や「防衛費倍増」など国の根幹に関わることがこの「閣議決定」で決められてしまった。本来ならば国民的議論が必要な極めて重要な問題だ。「反撃能力」では、反撃能力によって始められた日本国民に犠牲が出る可能性についても何の説明がないままだった。南西諸島は、日中間の戦争になればアジア太平洋戦争の末期のように、再び戦場になる可能性もある。岸田首相をはじめとする政府首脳たちは誠実に国民に説明すべきではないか。23日に発表された毎日新聞の世論調査では岸田首相の支持率は28%、不支持率は65%だった。国民の5分の3以上が支持していない人が現在日本では政府首班となっている。

内閣支持率、5カ月ぶり30%切る 岸田首相、再び正念場 世論調査 https://mainichi.jp/articles/20230723/k00/00m/010/171000c 2023/7/23 17:53


 不支持率の高さは閣議決定の多用や、防衛増税、マイナンバーカードの強引な運用、期待をもてない少子化対策に対する不信などがあるが、結局政策が民意と結びついていないことに政権が求心力をもてない背景となっている。マイナンバーカードは一応もっているが、免許証入れから取り出して使用したことは一度もなく、確定申告の際に番号を登録しただけだ。何かが便利になったという想いはまるでない。

 赤川氏は閣議決定の使い方が独裁政治に近いと述べているが、麻生太郎氏が2013年7月に「ナチスの手口に学んだらどうか」と語ったことを思い出してしまう。ナチスが巧妙に独裁政治に移行していったことを称賛するかのような発言には国の内外から批判が集まった。しかし、現在の日本政治は民主主義が静かに骨抜き状態になっているようだ。

 ペルーの作家マリオ・バルガス=リョサは2012年12月のノーベル文学賞受賞演説「読書と虚構を褒め称えて」の中で次のように述べている。

「独裁というものがひとつの国にとって絶対悪を意味し、暴虐と腐敗の温床となるという私の信念、独裁というものが癒すのに長い時間を必要とし、未来に禍根を残し、何世代にもわたって消えることのない悪習を創りだし、民主主義の再建を遅延させるほどの深い傷を残すという信念に基づいた行為です。」

講演後、談笑する大江健三郎氏(左)とペルー生まれのマリオ・バルガス・リョサ氏。ともにノーベル文学賞受賞作家だ(都内)(2011年06月21日) 【時事通信社】 https://www.jiji.com/jc/d4?p=oek001-jpp11005367&d=d4_cc


 独裁政治から立ち直るには長い時間がかかると、彼は警鐘を鳴らしているが、日本の民主主義は敗戦という歴史的な大事件を経て与えられた。漫画家赤塚不二夫氏が書いた「『日本国憲法』なのだ!」では、ひみつのアッコちゃんは、「国民が主権者になるまで多くのギセイと努力があったのよっ!」と語っているが、国会での議論が不要なように閣議決定を多用するのは国民主権の原則を侵すものだ。実際、岸田首相は反撃能力と防衛費倍増を閣議決定すると、国会に諮る前に米国を訪問してバイデン大統領にこれらの決定を報告した。これで彼の政治は日本国民よりも米国を向いていると思われても仕方ない。

「明らかに見下されているようにも見えるが、本人は逆に喜んでいる」そんな情けない首相に対し、政界の重鎮・小沢一郎氏の「裸の王様に鉄槌を下し、わからせてあげないといけない」とのコメントは辛辣だが、実に正しい認識だ。兵器爆買いより、自主防衛体制を貫徹するべきだ。 小沢一郎(事務所) @ozawa_jimusho 1月19日 首根っこを掴まれるようなポーズから、明らかに見下されているようにも見えるが、本人は逆に喜んでいる。今後、役に立つかもわからない巨額の武器を売りつけられ、その分は増税として国民の肩に重くのしかかる。それでも本人は無邪気に自画自賛。裸の王様に鉄槌を下し、わからせてあげないといけない。 https://twitter.co


 アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴したドイツ出身のユダヤ人の哲学者ハンナ・アーレント(1906~1975年)は、「悪の凡庸さ」という言葉を使って平凡な人間が行う悪こそ世界最大の悪だと説いた。考えることを放棄することによって、誰もがアイヒマンのような人間になってしまうと彼女は説いた。政府が閣議決定を多用するようになった現在、私たち日本国民も考えることを放棄し、米国や、それと歩調を合わせて日本政府が煽る反中国ナショナリズムに熱狂して独裁制、あるいは戦前の軍国主義体制に回帰することに加担するようなことがあってはならない。



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