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「イランを地球上から消滅させる」 ―ドナルド・トランプ

 米大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ前大統領は7月25日、敵対関係にあるイランが自身を暗殺した場合、同国を地球上から消滅させるよう呼び掛けた。トランプ前大統領は2019年にもイランを跡形もなく消滅させると述べたことがあった。彼のイランに対するイメージはイスラエルのネタニヤフ首相らに影響されたと言われている。2020年1月3日にトランプ政権はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を暗殺したことがあったが、その暗殺にもイスラエルの意向があったことが指摘されている。ソレイマニ司令官は、イラクやシリアでIS(イスラム国)との戦いに功績があった人物で、米国の目標にかなう活動を行っていた人物だった。

 トランプ前大統領は自分でイランとの緊張を招いたにもかかわらず、2020年1月6日、イランの文化財を攻撃することも辞さないという考えも明らかにした。これを受けて「国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)」は、米国も調印する、文化・自然遺産を意図的に害することを禁ずる国際条約を順守すべきだという考えを明らかにした。

 トランプ大統領は文化財の歴史的価値も理解していないことだろう。2019年7月4日、米国の独立記念日におけるリンカーン記念堂でのスピーチで、ジョージ・ワシントンと独立戦争に触れながら、「大陸軍(Continental Army)」(独立戦争で、合衆国となった13の植民地から編成された軍隊)は、イギリスから空軍基地を奪取し、制空権を掌握したと語った。合衆国の独立は1776年、ライト兄弟が有人動力飛行に成功したのは1903年だから驚愕の発言である。トランプ前大統領はなぜ2つの中国があり、朝鮮半島が分断されたという歴史的背景も知らないとも言われている。トランプ前大統領は、とにかく読書をせず、書かれた文字を読むのが苦手のようだ。(「アトランティック」18年1月5日の記事)この人が大統領に再びなった場合、アジア太平洋地域で米国との安全保障協力を進める日本もとんでもない要求をされ、混乱するに違いない。

 トランプ大統領は、イランのアケメネス朝、サーサーン(ササン)朝、サファヴィー朝の歴史も知らないだろう。イランには22の世界文化遺産、また2つの世界自然遺産がある。文化遺産の数では米国の倍の数がある。

 世界遺産の認定を行う国連教育科学文化機関(ユネスコ)の憲章前文には「戦争は人の心が起こすものだから、人の心に平和の砦を築かなければならない」とある。世界遺産は平和のシンボルであり、また戦争の歴史への反省を世界にアピールするものだ。

 イランのアケメネス朝は、紀元前559年から紀元前330年まで継続した王朝で、その支配は寛容なものだった。キュロス大王、ダリウス大王の治世時代には征服した土地の人々がその宗教、習慣、商慣習を維持することを許し、また地方自治も行わせることもあった。世界遺産のペルセポリスは、アケメネス朝の神殿、宮殿、葬祭殿があったところで、国の栄華を今に伝えている。

 イランのイスファハーンは、サファヴィー朝(1501~1736年)時代に「世界の半分」とも称されるほどの繁栄を謳歌したが、イスファハーンが繁栄した様子は、現在でもかいま見ることができる。縦が50メートル、また横が300メートルの「イマーム(シャー)の広場」を中心にモスク、バザール、宮殿、また神学校が建築された。「イマームの広場」の南には「イマーム(シャー)のモスク」が、また東にはシャイフ・ロトフォッラー・モスク、北にはカイサリーヤ・バザール、さらに西にはアーリー・カープー宮殿が接している。「イマームの広場」は、現在その大部分が池からなっており、夏にはその池から水を放出する噴水が、周囲に涼感を与えている。

イラン・イスファハーン 「イマームのモスク」https://en.wikipedia.org/wiki/Shah_Mosque_%28Isfahan%29


 トランプ大統領の発言は、中東地域に無用な緊張をもたらし、またユネスコの平和の精神をも踏みにじり、歴史に対する無知と、また彼にはイランだけでなく、人類が共有する文化遺産への敬意が微塵も感じられないことがまたも明らかとなった。

表紙の画像は「イランを地球から抹殺しろ」
https://www.youtube.com/watch?v=yhN_Kn5-pL4

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