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「イスラエル国家」「シオニズム」はユダヤ人のヒューマン的価値観を上回る? ―ユダヤ人たちの純粋シオニズム批判

 10月7日のハマスによる奇襲攻撃があって以来、イスラエルを離れるイスラエル人たちが増加している。イスラエルはユダヤ人国家をパレスチナに建設するというシオニズムの考えによってユダヤ人たちをパレスチナに集めることによって建国されたが、そのシオニズムによる人の流れとは逆に、イスラエルを離れようとするユダヤ人が増加している。この傾向はすでに大規模なガザ攻撃があった2009年から始まったが、ネタニヤフ政権の司法改革によってはずみがついた。この司法改革では、政府の決定や人事を最高裁が「合理性がない」と取り消す権利が議会によって奪われることになったが、今年7月26日付の「タイムズ・オブ・イスラエル」紙では、世論調査の対象の28%の人々がイスラエルを離れたい意向であることを表明している。イスラエルを離れる傾向は先月から始まったガザでの戦争によって拍車がかかったことは言うまでもない。

 米国の哲学者、言語哲学者、言語学者であるノーム・チョムスキーは、2018年11月上旬にi24 Newsとのインタビューの中で、イスラエルで「ユダヤ・ナチ的傾向」が強まっていると発言した。チョムスキーは、ユダヤ系の米国人だが、イスラエル・ヘブライ大学の教授であったイェシャヤフ・レイボヴィッツ(1903~1994年)がイスラエルの占領が続けば、イスラエルは「ユダヤ・ナチ」に転ずるという警告を発したことに触れ、ユダヤ・ナチは現在のイスラエルの行動に言い得るものだとインタビューの中で語っている。

ガザをご覧なさい。 200万人を強制収容所に入れるつもりなら、 事実上そうしていますが、彼らを悪質な包囲下に置くなら、こんなことをするのが正当なことなのか自問してみてください。 ーチョムスキー  https://www.facebook.com/RTnews/photos/a.10150144237704411/10157276702844411/?type=3


 レイボヴィッツは、「イスラエル国家」と「シオニズム」はユダヤ人のヒューマンな価値観を上回るようになり、イスラエルの占領地でのふるまいをユダヤ・ナチ的なものと表現した。レイボヴィッツは、1953年にイスラエルの特殊部隊である第101部隊(後に首相となるアリエル・シャロンが指揮を執っていた)がヨルダン川西岸のキブヤで、非武装の女性や子供たちなど70人を虐殺し、村を破壊すると、この虐殺がシオニズムの産物であると断言した。シオニズムというナショナリズムが、テロリストではない、正規の軍隊に残虐な行為を行わせたというのがレイボヴィッツの考えであった。

イェシャヤフ・レイボヴィッツ


 チョムスキーによれば、イスラエルはリベラルな市民の支持を失い、欧米の最も反動的な勢力や原理主義的な福音派の運動によって支持されるようになり、これらの運動は、反セム主義のイデオロギーをもちながらも、イスラエルの過激な行動を支持している。イスラエルを支持する米国の福音派の考えでは、イエスの復活によって成立する千年王国ではユダヤ人の特別的な地位を認めることはなく、トランプ前大統領など共和党の政治家を支持する福音派には白人至上主義者が多い。まさにチョムスキーの主張する通りだ。

 20世紀ヨーロッパで最も影響力があったとされるイスラム学者のムハンマド・アサド(1900~92年)は、オーストリア・ハンガリー支配下の現ウクライナでユダヤ人の家庭に生まれた。ユダヤ人名をレオポルド・ヴァイスというが、シオニズムに疑問を感じて1926年にイスラムに改宗した。彼にとっては、イスラムは人間の普遍的価値観を伝え、他方ユダヤ教は排他的な考えをもっている。彼は、政治とイスラムの融合は不可欠であり、社会は神の意思に従わなければならないと考え、現在のイスラム主義のイデオロギーにも近い考えをもっていた。

ムハンマド・アサド ユダヤ教からイスラムに改宗 https://www.facebook.com/p/Allama-Muhammad-Asad-Leopold-Weiss-100063930468847/


 アサドは、シオニズムの考えに基づく移民のユダヤ人たちが欧米の列強に支援されながら、パレスチナで多数派になろうとしてやって来て、先史時代からパレスチナの地に住む人々の土地や財産を奪うのは、不道徳なものと考えた。彼は、シオニズムは植民地主義と結びつく種族支配と考え、シオニズムがユダヤ人を「選ばれた民」と見なすことには嘲りの感情さえもたざるを得ないと述べた。

 アサドはサウジアラビアでも生活し、初代国王アブドゥル・アズィーズとも親密になったが、サウジアラビアの腐敗した官吏を批判し、政府はより敬虔に、贅沢を抑制するように訴えたが、それで王政との軋轢が生じた。

 アサドのシオニズムやサウジ王政批判は現在にも通じるものがあるが、ユダヤ人であった彼のシオニズム批判が「反セム主義」ではないことは言うまでもない。


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