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共存の都エルサレムの中心で「ガザの子どもを殺すな」と叫ぶ

 6日夜、エルサレム中心部でイスラエル軍に対して「ガザで子どもを殺すな」「戦争をやめろ」などのスローガンを唱えるイスラエルの平和活動家らによるデモがあった。(読売新聞、7日)エルサレムで反戦デモが行われたのは、昨年10月7日にハマスの奇襲攻撃があってから初めてだという。

7日、エルサレムで開かれた反戦デモで警察に排除される参加者たち=福島利之氏撮影 https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20240107-OYT1I50073/


 三大一神教の聖地である東エルサレムはイスラエルが1967年の第三次中東戦争で軍事占領したところであり、イスラエルは極右の入植者などがハラム・アッシャリーフに足を踏み入れることを黙認し、既成事実の積み重ねで極右が主張するように、ハラム・アッシャリーフからイスラムの宗教活動を締め出し、そのイスラエル(ユダヤ教)化を図っているようだ。1949年のジュネーブ第4条約は、ナチスが行ったような武力による領土の併合を認めていない。

エルサレムのイスラムの聖地 岩のドーム(左)とアルアクサーモスク(右) 


 1099年7月に十字軍がエルサレムを攻撃すると、ムスリムとユダヤ人はともに十字軍と戦い、4万人とも、あるいは7万人とも見積られるムスリムとユダヤ人が虐殺された。十字軍はエルサレムを占領すると、岩のドームはキリスト教会に、またアル・アクサー・モスクは、テンプル騎士団の本部とされ、またムスリムとユダヤ人はエルサレムから追放された。しかし、1187年にサラディン(サラーフッディーン:1138~93年)がエルサレムを奪還すると、これらの施設をイスラムの宗教施設に戻し、あらゆる宗教活動を許容し、またユダヤ人の帰還を認めた。

 サラディンはエルサレムを支配するようになったが、十字軍で敵対してきたクリスチャンたちを寛容に扱い、またユダヤ人コミュニティは保護を受け、スペインのコルドバ出身のユダヤ人哲学者、医学者のモーシェ・ベン=マイモーン(1135~1204年)は、サラディンとその息子の侍医となった。サラディンは、エジプト、シリア、イエメンなどを支配し、アイユーブ朝(1169~1260年)を創設したが、その支配下でもエジプトのクリスチャンのコプト教徒などを寛容に扱い続け、コプト教会の活動はアイユーブ朝で盛んとなり、コプト教徒たちにはアイユーブ朝の官吏として仕える者たちもいた。このようにエルサレムを含むイスラム世界では三大一神教の共存が定着していた。

 エルサレムの安寧が急速に崩れるのは、19世紀にオスマン帝国の権威が低下し、ヨーロッパの領事館、宗教使節、また考古学チームなどが街に溢れるようになってからだ。また、エルサレムにユダヤ人の国家を建設しようとするシオニズムの思想が成長すると、エルサレムでは貧しかったユダヤ人たちもヨーロッパのロスチャイルド家などの支援を得て、ムスリムと影響力を競うようになり、1900年までにユダヤ人人口は35,000人とムスリム、クリスチャンの1万人を上回るようになった。シオニズムに見られるユダヤ人のナショナリズム思想がパレスチナ・アラブ人たちとの対立を煽っていった。

イスラエル・ヘブライ大学で ユダヤ人の本性は当然のことだが、イスラエルの極右のような人ばかりでない https://archive.jewishcurrents.org/tag/hebrew-university/


 「シェイフ・ジャッラー」は十字軍を駆逐したサラディンの侍医の名前にちなんだもので、エルサレム旧市街の城壁の北1キロ以内に位置するパレスチナ人にとっては由緒ある地区である。シェイフ・ジャッラーも1967年の第三次中東戦争でイスラエルが軍事占領したところで、そこの住民の立ち退きは国際法の観点からも決して容認されるものでないことは明らかだ。イスラエルの入植者のグループは1885年にオスマン帝国時代にユダヤ人がここの土地を獲得したとシェイフ・ジャッラーの土地の所有権を訴えるようになった。

 ラトビア・リガで生れたイスラエルの化学者イェシャヤフ・レイボヴィッツ(1903~1994年)はシオニズムとは「外国人の支配に甘んずるのはもうたくさんだ」という考えに発する運動であり、シオニズムは国家を至上目的とし、1967年の第三次中東戦争以後は軍隊が国家を守る完全な軍事国家になり果てたと述べている。イスラエル国家やシオニズムがユダヤ人のヒューマンな価値より優先された時、イスラエルの占領地におけるふるまいは、「ユダヤ・ナチス的性格をもつ」と述べたが、今のイスラエルの振る舞いはまさにレイボヴィッツの観察通りになっている。

イェシャヤフ・レイボヴィッツ(1903~1994年) https://mosaicmagazine.com/observation/israel-zionism/2021/09/yeshayahu-leibowitz-wears-a-kipa-a-story-of-1967/


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