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暗雲漂うパリ・オリンピック ―東京大会同様の不祥事と膨らむ大会経費

 6月20日、パリ郊外サンドニにあるパリ・オリンピック組織委本部と、パリ・オリンピックの建設プロジェクトを担当する公的機関SOLIDEOの事務所が家宅捜索された。東京オリンピック・パラリンピック2020大会で汚職事件が次々と発覚したことは記憶に新しい。また、東京オリンピック・パラリンピック2020大会と同様に、長引く物価高等で大会経費が当初の見積もりよりはるかに多く膨らむ見込みとなり、フランスの会計検査院は予算緊縮の必要性を訴えている。

 新しく競技種目に加わるブレイク・ダンス、スケート・ボードなどがオリンピックに本当に必要な種目なのかと思ってしまう。パリ大会開会式はスタジアムではなく、セーヌ川で開かれるそうだが、想像しただけでも、東京よりも狭いパリで競技や宿泊施設など果たして可能なのかと思ってしまう。パリは21世紀に入って大規模なテロが起こってきたところでもある。

 「平和の祭典」、オリンピックの開催意義はますます薄れつつある印象で、ウクライナ侵攻を行ったロシアや、それに協力するベラルーシの参加はどうなるのだろう。

 1964年の東京オリンピックの記録映画を監督した市川崑氏は「平和」をテーマにシナリオを書き、平和と平等のシンボルである太陽を冒頭画面いっぱいに表現した。また聖火リレーのシーンは広島から始め、映画は「聖火は太陽へ帰った。人類は4年ごとに夢を見る。この創られた平和を夢で終わらせていいのであろうか」の字幕が流れるところで終わっている。市川監督は「オリンピックの理念の世界の平和と友情は、変わらないでほしい。」と語った。(市川崑総監督が語る名作「東京オリンピック」〔JOCのページ〕より)東西冷戦時代のオリンピックだったから市川監督の想いは切実だった。

市川崑監督 https://www.daily.co.jp/gossip/2018/10/24/0011757311.shtml

 オリンピックの開会式を観た作家の石川達三は「開会式に思う」(朝日新聞)の中で「開会式は金がかかったセレモニーだ。この日のために参加各国はどれほどの犠牲を払ったことだろう。聖火を東京に運ぶことだけについても何万人という人たちが苦心を払い、犠牲を払ったはずだ。しかし、ここに94カ国の選手6000人が集っている。これが国と国との間の平和をすすめ、親睦と理解とを進めるものであるならば、何と安いことであろう。まことに喜ぶべき犠牲ではないだろうか。」と書いている。

開会式に思う / 石川達三   解放と別離の陶酔 / 松本清張

 戦争の記憶が生々しい、敗戦から19年後の1964年の東京オリンピックでは日本の作家たちが平和を意識した文章を書いている。開会式を観た杉本苑子は「明日への祈念」(共同通信)と題する文章の中で、「20年前のやはり10月、同じ競技場に私はいた。女子学生の一人であった。出征していく学徒兵たちを秋雨のグランドに立って見送ったのである。天皇、皇后がご臨席になったロイヤルボックスのあたりには東条英機首相が立って『敵米英を撃滅せよ』と学徒兵たちを激励した。暗鬱な雨空がその上を覆い、足元は一面のぬかるみであった。私たちは泣きながら往く人びとの行進に添って走った。私たちにあるのは今日を今日の美しさのままなんとしても明日へつなげなければならないとする祈りだけだ。」と述べ、戦中の日本と対比してオリンピックの平和精神が将来の日本や世界を覆うことを願った。

杉本苑子

 東京オリンピック・パラリンピック2020大会経費の全容は最後まで不明のままで、各国チームのキャンプを誘致した費用などを含めれば、約3兆円にも達するという見方もできるという報道もあった。毎日新聞(昨年6月21日)には「実は3兆円超え?試算も 東京五輪『1.4兆円』に関連経費含まれず」という記事もあった。札幌市が2030年の冬季オリンピックの誘致に動いているが、東京オリンピックの不祥事や膨らんだ開催経費、また東京大会の開催経費の精密な検証を行わなかったこと、またさらに暗雲が漂い始めたパリ・オリンピックを見ると、1964年東京大会のような明確な開催意義は見当たらないし、日本はオリンピックの招致はもうしなくていいと思う国民は少なくないはずだ。また、繰り返し言われてきているが、競技種目など大会規模を含めてオリンピックの開催意義を国際社会はあらためて問い直すべきだと思う。

アイキャッチ画像は2024年パリ五輪・パラリンピック組織委員会が公表した、セーヌ川で行う五輪開会式のイメージ画像(同委提供)


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