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リビア大洪水 ―ヨーロッパに翻弄され、満州国と似た運命をたどったリビア

 リビア東部を襲った大洪水では死者5300人超、1万人が行方不明になっているという報道もある。大雨によって2つのダムが決壊し「壊滅的」という表現もされるほどだが、リビアの大洪水には地球の気候変動も関係しているに違いない。

リビア大洪水 デルナでの被害状況を確認する人々/-/AFP/AFP via Getty Images https://www.cnn.co.jp/world/35209009-2.html


 リビアは、アフリカ最大の石油埋蔵量を抱え、世界でも10番目の確認埋蔵量を誇る。リビアの石油は輸出の95%を占めるが、リビアでは腐敗が深刻となり、「トランスパレンシー・インターナショナル」の腐敗認識指数では、2022年、世界180カ国のうちで171番目という深刻ぶりである。

 このリビアは第二次世界大戦中、イタリアの植民地とされ、日本の満州国と似た運命をたどった。リビアは、1911年にイタリア軍がオスマン帝国の領土であったリビアに上陸し、その植民地とされた。イタリアのムソリーニ政権はアフリカにおける「ローマ帝国支配の再確立」を唱え、イタリア本国からの移住を促進し、およそ15万人のイタリア人がリビアに移住していった。これは当時のリビアの総人口のおよそ5分の1を構成するものだった。イタリアから移民してきたのはイタリア南部の貧しい、「メッツォジョールノ」と呼称される地域の出身者たちだったように、イタリアのリビア進出は国内の貧困対策の一環として行われた。さながら日本の満州国建国のようだった。

 イタリアのリビアでの植民地経営の努力は1941年から43年の北アフリカ戦線でイタリアが敗北を喫して壊滅状態になる。1942年末までにほぼすべてのイタリア人入植者たちは本国に帰還した。イタリアが敗北した後、リビアはイギリス・フランスの行政下に置かれ、イギリスは東部のキレナイカと西部沿岸のトリポリタニアを、またフランスは内陸のフェザッーン地方を支配するようになった。

戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢になった時はとても危ない。―田中角栄

https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1497510688516116480


 田中角栄元首相は1939年4月から満州国富錦(ふきん)市で兵役について騎兵隊に配属され、古兵の制裁に遭ったりしていたが、その古兵たちがノモンハン事件(1939年5月~9月)で多数が戦没すると戦争の怖さを実感した。ノモンハン事件では8000人前後の日本兵が戦死し、「陸軍始まって以来の大敗戦、国軍未曽有の不祥事」とも形容されて自決を強いられて亡くなった部隊指揮官もいるなど日本陸軍の不合理な体質を表した戦争でもあった。1945年8月にソ連軍が満洲に侵攻すると、関東軍は満州にいた150万人の日本人を守ることがなく、日本人開拓団は置き去りにされ、現地住民たちの激しい報復を受け、「開拓団が死を免れることは難しかった」と現地住民から言われるほどだった。

ノモンハン 責任なき戦い 講談社現代新書 著:田中 雄一 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324173


 リビアは1951年にサヌースィー教団(リビアのイスラム神秘主義教団)の長、イドリース・サヌースィーを元首とするリビア連合王国として独立した。サヌースィーが国王になったことは、イギリスの意向が強く反映されたものだった。サヌースィーは第二次世界大戦以前、長期にわたってイギリスの影響が強いエジプトに滞在し、大戦中も民兵組織をつくってイギリスに軍事的に協力した。新たに誕生した王国は、イギリス軍と米軍の駐留を直ちに認め、西側陣営の一翼を担っていく。

 1961年からリビアは石油の輸出を開始するなど、石油は世界最貧国であったリビアに大きな経済的恩恵をもたらすようになった。1964年にはリビアの石油輸出は日量80万バレルまでに膨らんでいったが、深刻な腐敗や格差という問題を生み出していった。国民の憤りは王政が1967年の第三次中東戦争でまったく対応しなかったことで頂点に達し、王政の命脈は風前の灯となり、1969年にカダフィ大佐を中心とする革命で倒れた。

 このカダフィ政権を2011年に「アラブの春」が起こると、フランスなどのNATO軍が空爆して打倒し、カダフィ大佐は2011年10月に殺害された。カダフィ大佐からフランスのサルコジ元大統領に不当な選挙資金の献金が行われ、その疑惑隠しのためにカダフィ大佐はサルコジ政権のフランスに「抹殺」されたという説もある。

 現在、外部勢力の干渉もあって、リビアはその混迷を一層深めている。トルコ、カタール、アラブ連盟は国際的に認知され、首都トリポリに拠点を置き、イスラム主義勢力や過激派が主導する国民合意政府(GNA)を、他方、ロシア、フランス、エジプト、UAEはベンガジを拠点とするハフタル将軍のリビア国民軍(LNA)を支援する。外部勢力の介入が内戦を複雑に悲惨にすることは歴史的に証明されてきたことだ。

リビア内戦の構図 二つの政府 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14595683.html


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