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パレスチナ・ジェニンの人々は広島・長崎より幸せ? ―原爆の惨禍を世界で初めて発信した米国人

 今月上旬、イスラエルが攻撃を行ったヨルダン川西岸ガザのジェニンへの攻撃についてはアラブ紙「アル・ハヤト・アル・ジャディーダ(新しい生活)」はジェニンの難民キャンプを「ヒロシマ」と形容した。

一番上の新聞 「アル・ハヤト・アル・ジャディーダ」 「広島、ジェニン難民キャンプ」とある https://english.wafa.ps/Pages/Details/136637

 中東イスラム世界ではヒロシマ、ナガサキの原爆の惨禍はよく知られ、残酷な米国のイメージとともに、その惨禍から立ち直った日本に対する称賛の想いともなってきた。

 歌手の新谷さんが1983年8月6日にパレスチナ難民キャンプで「原爆を許すまじ」を歌うと、歌う前に「今日8月6日は私たち日本人にとって悲しい記念日です」と紹介したところ、前のほうに座っていた難民の子どもたちが「ヒロシマ、ナガサキ!」と大きな声で発言した。新谷さんが驚き、どうしてあなたたちはヒロシマ、ナガサキを知っているのと尋ねたところ、「いま、僕たちは教科書も何もないけれど、先生が授業の中で教えてくれた」と答えたそうだ。同じアジアの東の端に日本(アラビア語でヤーバーン)という国があってかつての戦争で原子爆弾を落とされて何十万という人が亡くなったということを聞いている。「僕たちは戦争の中にずっといるけれど、でもそこまでつらい体験をしていないから幸せだよ」と話したそうだ。

https://twitter.com/arapanman/status/1411262534049361924  より

 「原爆を許すまじ」は(作曲:木下航二、作曲:浅田石二)は1954年のビキニ環礁の水爆実験で第5福竜丸が被爆したことを受けてつくられた。作曲者の木下氏は「原爆の図」(丸木位里・丸木俊作品、昭和25年)をメージして詩を書いた。新谷さんがパレスチナ難民キャンプで原爆を許すまじ」を歌った当時、「原爆の図」はあまりに悲惨だということで教科書から掲載されなくなっていたが、新谷さんはパレスチナの子どもたちの言葉を聞いて本当のこと(被爆の惨禍)はきちんと教えなければダメだと思ったそうだ。(「武田鉄矢の昭和は輝いていた」2021年7月2日放送より)

 2015年にNHKが行った調査では原爆投下の日を知っているのは3割弱だった。広島の原爆投下日について「8月6日」と正しく答えられたのは日本全国で2005年に37.5%、2015年は29.5%と落ち込んでいる。

 ジェニンは2002年4月にジェニンを軍事的に封鎖し、イスラエル軍の戦車とブルドーザーが、数千の家屋と水道施設を破壊した。イスラエル軍が水道管やポンプ施設を破壊したために、多くの人々が上水道の水を利用できず、汚水を飲料に使用したりした。そのため、少なからぬ子どもたちが病気になった。戦時下においては汚水を飲むことのほうが、戦闘よりも危険という主張もあるが、インフラを破壊することはジュネーブ諸条約に抵触し、戦争犯罪に該当する。 この時、イスラエル軍はメディアの取材を許可しなかった。日ごろのガザやヨルダン川西岸でのイスラエルの武力攻撃について知らされていないことが多い。米国のウクライナ軍へのクラスター爆弾の移転が問題になっているが、イスラエル軍は2006年のレバノン攻撃でクラスター爆弾を使用し、また2020年のアゼルバイジャン・アルメニア紛争ではアゼルバイジャンがイスラエル製のクラスター爆弾を使用した。


 広島への原爆投下についてはそれがどんなに恐ろしいものかを世界に最初に発信したのは、雑誌「ニューヨーカー」に掲載されたジョン・ハーシー氏の「HIROSHIMA」という記事だった。原爆の破壊力を広島で暮していた6人の被爆体験を通じて書いたが、日本から原爆に関する記事を送ると米軍の検閲で許可されないために、記事は米国にもち帰って発表した。被爆体験は多くの人の注目や関心を集め、掲載誌30万部はあっという間に完売となった。記事については科学者アインシュタインにも評価されて、アインシュタインは掲載誌1000部を知人・友人に送ろうとしたほどだった。

 戦争の惨禍を正しく伝えることは戦争への抑止力にもなる。唯一の被爆国の日本には核兵器の被害を含めて「戦争の惨禍」という過去を世界に発信し、核兵器廃絶を求め、戦争に反対する国際的世論を喚起する義務があるように思う。戦争に学んで平和な社会を80年近くも継続してきた日本に戦乱が続く中東イスラム世界からはパレスチナを含めて称賛や敬意があることを知らなくてならない。しかし、そうした責務を負った日本が近年は、日本に原爆を落とし、中東イスラム世界に第二次世界大戦後最も多く軍事介入を行ってきた米国との軍事同盟を強化しつつあることにある種の幻滅の想いが中東イスラム世界などで生まれつつのではないかと危惧せざるを得ない。

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