1967年のファタハ(パレスチナ民族解放運動)と、2023年のハマス ―構想するイスラエルとの戦争は酷似する ―地域紛争への拡大懸念
イスラエルのレバノン空爆は23日、24日の2日間で、569人が亡くなるほど激しく、レバノンの保健相はイスラエルによる大虐殺だと非難するようになった。
1950年代から60年代にかけてアラブ世界では、アラブの統一、発展、繁栄を考えるアラブ・ナショナリズムがアラブ世界を席巻していた。エジプトの大統領ナセルは、1956年にイギリスやフランスが大株主であったスエズ運河を国有化したが、これに反発したイギリス・フランスは、エジプト領シナイ半島からのパレスチナ人のゲリラ攻撃に悩まされていたイスラエルを誘ってエジプトに宣戦布告した。
戦争がソ連の地域への介入を招くことを恐れた米国のアイゼンハワー政権は、イギリスに対するIMF融資の停止などをちらつかせて、戦争を停止させた。戦争には敗れたものの、スエズ運河の国有化を維持することになったナセルはアラブ世界の英雄になった。アラブ・ナショナリズムは高揚し、1962年にアルジェリアが8年間の戦争の末に独立を勝ち取り、また1958年にはイギリスが連れてきたハーシム家の王政を打倒するイラク革命が起こり、さらに同年、エジプトとシリアの合邦が行われた。第三世界の独立の気運に乗じてアフリカでも1960年に17カ国が独立して、60年は「アフリカの年」と呼ばれた。
「ファタハ(パレスチナ民族解放運動)」を指導していたヤーセル・アラファト(1919~2004年)は、パレスチナを解放するにはパレスチナ人だけでは非力すぎる、パレスチナ人のゲリラ活動でイスラエルとアラブ諸国の緊張を起こすことによって、イスラエルとアラブ世界の全面戦争を起こし、アラブ諸国が勝利することによって、イスラエルからパレスチナを解放することを目指した。その通り、アラファトらのゲリラ活動で、イスラエルとアラブ諸国の間の緊張は高まり、エジプトのナセル大統領はイスラエル南部の港湾都市エイラトから地中海に至る出口であるチラン海峡を封鎖した。これをエジプトの宣戦布告と見なしたイスラエルは1967年6月5日、エジプトやシリア、ヨルダンというアラブ諸国に先制攻撃をしかけ、その結果戦争(=第三次中東戦争)はわずか6日間でイスラエルの圧倒的勝利に終わり、現在でもイスラエルによる東エルサレム、ヨルダン川西岸、ゴラン高原の占領は継続している。
第三次中東戦争の際のアラファトと同様な発想をもったのは、23年10月7日に、イスラエルに奇襲攻撃をしかけたガザのハマスの指導者ヤフヤー・シンワル(スィンワール)だ。彼は、ガザのハマスだけでは非力と考え、レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派民兵集団、イエメンのフーシ派、またイランをイスラエルとの戦争に引き込むことによってイスラエルとの戦争に勝利することを考えている。
彼の思惑の通りに昨年10月7日以来、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派はイスラエルをロケット弾、ミサイル、ドローンなどで攻撃するようになった。
現在、レバノンではイスラエルのポケベル攻撃や空爆を受けて、右派政党までもがパレスチナ支持を表明するようになっている。ヒズボラは短距離および長距離ミサイル数十発を発射し、イスラエル北部の都市ハイファの複数の都市中心部を攻撃した。標的には、電子機器製造施設や、イスラエルの主要空軍基地であるラマト・ダビドなどの軍事施設が含まれていた。イスラエルの目的は、ヒズボラの攻撃によって避難を余儀なくされた10万人程度のイスラエル人を帰宅させることにあるが、イスラエル軍の攻撃はヒズボラのさらなる抵抗を招き、難民の帰還は早期に実現しそうにない。イスラエル軍のレバノン攻撃の激化は避難民の帰還という目標にはむしろ逆効果のようだ。イスラエル最大の都市テルアビブにもヒズボラのロケット弾やミサイルは着弾した様子だが、イスラエル政府は国民の士気に関わるために、テルアビブの被害をメディアが報じることを禁止している。イスラエルの誇るアイアン・ドーム・システムもヒズボラのロケット弾やミサイルを完全に封じることになっていない。
ヒズボラは、イスラエルの避難民たちを帰宅させるには、ガザでの戦争を停止することだとイスラエルに対して再三警告を発している。ハマス、ヒズボラ、フーシ派は昨年10月以来、イスラエルを攻撃する能力を失っていない。軍事力一辺倒でこれらの組織の攻撃を封じることがいかに難しいかをあらためて示している。
イスラエルによるレバノンへの全面攻撃は、地域全体の紛争に発展する可能性がある。イランは直接イスラエルを攻撃しないかもしれないが、地理的に離れているハマスはともかく、ヒズボラやフーシ派、イラクやシリアの民兵集団への軍事や、あるいは物資面での支援をより強化していくことだろう。同様にウクライナ問題で欧米と敵対するロシアも、その軍隊がシリアに駐留するため、ヒズボラや、シリアやイラクの民兵集団に直接支援を与えることができる。
イスラエルとヒズボラの緊張、あるいはこの地域全体の対立を弱めるにはイスラエルのガザ攻撃をできるだけ早く停止させることだ。そのためには日本の役割だってあるはずだが、上川外相はイランだけに自制を求めてイスラエルにはそのような姿勢がまるで見られない。ガザで停戦が実現すれば、ヒズボラも、フーシ派も、あるいは他の民兵集団もイスラエルを攻撃する理由がなくなるが、残念ながらネタニヤフ首相にはガザ停戦への意欲が感ぜられない。
表紙の画像は https://news.ntv.co.jp/category/international/8943256e00284c07a4f572387610804e より
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