見出し画像

ハマスは戦争に勝利している? ―『フォーリン・アフェーアズ(Foreign Affairs)』

 アメリカの『フォーリン・アフェーアズForeign Affairs』誌は、「ハマスは勝利している:イスラエルの破綻した戦略はどうして敵を勝利させているか(Hamas Is Winning: Why Israel’s Failing Strategy Makes Its Enemy Stronger)」という記事を6月21日付で掲載した。同記事によれば、9カ月に及ぶ過酷な戦争を経てイスラエルにはハマスを打ち負かすための軍事的解決策は存在しないという現実を認識すべき時が来たという。イスラエルは4万人の戦闘部隊をガザ北部、南部に侵攻し、ガザの人口の80%を強制退去させ、また3万7000人余りを殺害し、7万トンの爆弾を落としたにもかかわらず、ハマスの主張はむしろパレスチナの人々の間で支持を集めるようになった。7万トンという爆弾の重量は、第二次世界大戦中にロンドン、ドレスデン、ハンブルクに落とされた爆弾の総重量を上回る。

ガザでは食べるものがない https://www.unicef.or.jp/news/2023/0227.html


 イスラエル軍のハガリ報道官も19日、ネタニヤフ政権が目指すハマスの壊滅は達成不能だと発言した。ハマスとは「思想」であって、人々の心に根づいたもので、その壊滅を訴えることは国民を欺くものだと批判し、人質全員の解放も軍事力では不可能だと述べた。

 ハガリ報道官の批判は当然のもので、イスラエルがハマスの活動を封じたいならば、交渉によってパレスチナ国家を認め、ガザの人々の生活状況を改善することのほうが重要だ。

すさまじい破壊だ ガザ https://www.jiji.com/jc/p?id=20240612085236-0080251555


 軍事力でハマスが壊滅することがないのは、アメリカがベトナム戦争でベトコン(南ベトナム解放戦線)の制圧を目指し、米軍とCIAが手を組んで北ベトナムと通ずると考える「共産主義者」を南ベトナムから一掃する破壊工作(フェニックス作戦)に着手し、2万人以上が虐殺され、共産主義者が潜むとされた村が焼き払われてもなおベトコンの活動が消滅することはなかったのと同様だ。

「CIAの作戦はまるで見当違いで果てしなく暴走していった。私はCIAの一員として祖国アメリカを誇りに思っていたが それもベトナムに来るまでだった(CIA元工作員 ラルフ・マギーの発言)」

 イスラエル軍がハマスとの停戦協議を支持するようになった背景にはイスラエル北部の安全に対するレバノンのヒズボラの脅威が増したことにも関係がある。ガザでの戦争は出口が見えなくなる一方で、ヒズボラの兵器は洗練され、イスラエル北部の標的を正確にとらえるようになっている。また、イスラエルのメディアはイエメンやイラクからミサイルが飛来し、さらにヨルダン川西岸でもパレスチナ人武装集団の攻撃があることを非難するようになった。現在のイスラエルの戦争の敵はハマスやヒズボラのように国家主体ではないが、イスラエル建国から第三次中東戦争や第四次中東戦争までの間、イスラエルが周辺のアラブ諸国の軍事的脅威を感じていた1960年代、70年代にまでタイムスリップしたかのように、イスラエルにとって深刻な事態となっている。


 22日、テルアビブではネタニヤフ首相の辞任を求める15万人規模のデモが行われたが、これは昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃があって以来、最大規模のデモとなった。ネタニヤフ首相への反発は、人質交換交渉が成立するまでの間、ガザ空爆を停止することをネタニヤフ首相が拒否したことが大きい。人質の家族はネタニヤフ首相が政権の座に留まる限りは、その解放の実現は不可能ではないかと悲観的になっている。

 現在、ネタニヤフ首相は汚職で裁判にかけられていて、彼が首相の座を失えば、裁判が進行し、投獄される可能性もある。アメリカのバイデン大統領は、5月下旬「タイム」誌とのインタビューの中でネタニヤフ氏が権力の座にとどまりたいがために9カ月にもわたってガザの作戦を継続していると疑うのは正当だと語った。ネタニヤフ氏が連立与党を維持できる限り彼は2026年まで首相の座に留まることができるが、イスラエル国家分裂の危機や外部からの脅威はますます深刻になりそうな気配だ。

表紙の画像は「イスラエル軍の報道官 イスラム組織ハマスについて「破壊することはできない」 軍とネタニヤフ政権の亀裂深まる」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1241960


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?