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ワグネル、UAE、リビアの黒い枢軸 ―UAEのロシア・ワグネルへの接近は米国の中東政策の綻びを表す?

ロシアでクーデターに失敗したとされるワグネル・グループは、中東のUAE(アラブ首長国連邦)と密接な関係を築いてきた。UAEのムハンマド大統領は6月16日、プーチン大統領とモスクワで会見し、両国の関係強化を図っていきたいと発言し、またワグネル・グループの「クーデター」未遂後、ロシア大統領府はUAEのムハンマド大統領がロシア指導部の行動を全面的に支持すると述べたことを明らかにした。

 米国にとっては信じられない動きに違いない。UAEは中東における米国の同盟国と信じられ、米国製武器の購入では2015年から19年の間UAEは第3位だった。

このようにUAEは米国製の武器を世界で三番目に多く買ってきた(2015~19年)

ワグネル・グループは、プーチン大統領の「手駒」として行動し、ロシアから遠く離れた地域への介入をロシア政府に代わって行い、また中東やアフリカの指導者たちとも連携し、彼らの支援を受けながら、その目標にかなうような活動も行ってきた。UAEはその一例である。

プーチン大統領とプリゴジン

UAEの航空会社と言えば大手だと日本人にも馴染み深いエミレーツ航空とか、エティハド航空を思い浮かべるが、UAEを拠点とする航空会社クラトル・アヴィエーション(Kratol Aviation)は、ワグネルの戦闘員や武器を、リビア、中央アフリカ、マリに運んだという理由で、今年1月26日に、米国バイデン政権から制裁を受けた。

 同じ1月26日に、米財務省はワグネルを多国間の犯罪組織に指定している。米財務省から多国間の犯罪組織と認定されたのは他にはアルカイダやISなどがある。米国政府は対ロシア制裁の抜け道として。ロシアがウクライナでの戦争を継続するためにワグネルが武器や戦費の調達を行っていると見ている。ワグネルやクラトルに対する制裁はロシアの戦争遂行能力を奪うことになると米国政府は考えるようになった。

ワグネルの名称はヒトラーのワグナー崇拝からつけられた

 2020年11月、米国防総省はUAEがリビアのワグネル・グループに財政的支援を行っていることを公表したが、米国と親密な関係にあり、エネルギー資源が豊饒で、資金も潤沢にあるUAEがロシアの準軍事組織に支援を行うのは米国の戦略目標を損なうことになるのは明らかだ。米国は、UAEやエジプトにワグネルとのつながりを断つように圧力をかけるようになった。UAEとエジプトはワグネルと連携し、リビアのハフタル将軍の「リビア国民軍(LNA)」を支援してきた。ハフタル将軍はリビアの軍閥で、国際的に認知され、リビア西部のトリポリを拠点とする国民統一政府と敵対している。

リビアは各国の代理戦争の場となっている リビアでもロシアとUAEは共闘している https://mainichi.jp/articles/20200120/k00/00m/030/325000c

 スーダンはロシアに金の売買で戦争遂行のための財源を与えてきたと見られている。2017年に当時のバシール大統領とロシアのプーチン大統領が会談し、「メロエ・ゴールド会社」を起ち上げてからロシアはスーダンの金の取引に関与するようになった。まさに「紛争ゴールド」の世界である。RSF(即応支援部隊)のダガロ将軍はロシアとの金の取引で私服を肥やしてきた。昨年7月、CNNはスーダンからの情報としてそれに先立つ1年半の間に金を密輸する輸送機によるフライトがスーダン・ロシア間で16回あったと伝えている。この見返りとしてロシアはRSFに武器を供与してきたとされている。

 また、マリでは2021年2月に成立したゴイタ暫定政権とワグネルは協力関係にあると見られ、国連は政府軍とワグネル・グループが恣意的な処刑、拷問、レイプ、性暴力、略奪、誘拐に関わってきたと見ている。

 今年2月、在中央アフリカ・ロシア大使は、中央アフリカにはロシアの軍事教官が1、890人活動していることを明らかにしたが、ワグネル・グループは、軍事顧問や訓練教官としてこの国で活動している。このように、トゥアデラ中央アフリカ共和国大統領への協力の見返りとして、ワグネル・グループはダイヤモンド、金といった稀少金属や木材に関する利権を与えられていると見られてきた。この国でもマリと同様にワグネル・グループによる人権侵害が国連によって報告されるようになった。

 ムハンマド大統領のUAEにとって、ワグネル・グループはリビアのハフタル将軍を支援するなど、UAEの戦略目標にかなう行動を行い、UAEの企業に対して制裁を加える米国よりも、UAEがロシアに親近感をもったとしても不思議ではない。米国はG7の国々に対して対ロシア制裁で一致した行動をとることを呼びかけているが、UAEの姿勢は中東における米国の影響力の低下や米国の中東戦略に綻びがあることを明らかにしている。UAEはロシアとの相互協力によって中東・アフリカ地域における指導力の強化を考えるようになった。

アイキャッチ画像はUAEのムハンマド大統領とロシアのプーチン大統領


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