イスラエル軍が撤退したナセル病院から280人余りの遺体 ~いっそう求められる国際社会の停戦圧力
イスラエル軍が撤退したガザ南部のナセル病院から280人余りの遺体が発見された。言うまでもなく、病院への攻撃は国際人道法違反、武器をもたない民間人の殺害は国際法違反のジェノサイドだ。国際社会はイスラエルに対して最大限の抗議の意思を表明すべきだ。ナセル病院は国境なき医師団日本会長の中嶋優子医師も昨年11月から12月にかけて活動していたところだ。
日本政府は岸田首相も、上川外相も昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃があって以来、「ハマスのテロを断固非難する」と表明してきたが、このナセル病院の惨事についてイスラエルにも強い抗議や非難の意思を伝えなければ、まったく公平ではない。広島出身の岸田首相は、広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑にある「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という碑文には広島や長崎の原爆のような、非武装な一般市民に対するジェノサイドを繰り返さないという意味も込められているとは思わないのだろうか。
一昨年4月にウクライナのブチャを訪問した岸田首相は、「人道上問題となる行為を厳しく非難する」と述べロシアを強く非難したが、同じ言葉はイスラエルに対しても向けられなければならない。また、ブチャでは「残虐な行為に憤りを感じる。日本はウクライナの平和を取り戻すため、最大限の支援を行っていきたい」とも述べたが、ガザの平和のためにも最大限の努力を払ってもらいたい。
イスラエル・ヘブライ大学の教授であったイェシャヤフ・レイボヴィッツ(1903~1994年)がイスラエルの占領が続けば、イスラエルは「ユダヤ・ナチ」に転ずるという警告を発し、ユダヤ・ナチは現在のイスラエルの行動に言い得るものだと語った。
レイボヴィッツは、「イスラエル国家」と「シオニズム」はユダヤ人のヒューマンな価値観を上回るようになり、イスラエルの占領地でのふるまいをユダヤ・ナチ的なものと表現した。レイボヴィッツは、1953年にイスラエルの特殊部隊である第101部隊(後に首相となるアリエル・シャロンが指揮を執っていた)がヨルダン川西岸のキブヤで、非武装の女性や子供たちなど70人を虐殺し、村を破壊すると、この虐殺がシオニズムの産物であると断言した。シオニズムというナショナリズムが、テロリストではない、正規の軍隊に残虐な行為を行わせたというのがレイボヴィッツの考えであった。イスラエル軍の残虐な行為はガザでは日常茶飯事のようになっているが、イスラエルはレイボヴィッツの観察のように、シオニズムというナショナリズムが過度になって、ナチス的傾向を身につけるようになっている。
ナセル病院でイスラエル軍撤退後に多くの遺体が発見されたというのは、ナチス・ドイツ軍撤退後のウクライナ・バビ・ヤールで、おびただしい数のユダヤ人の遺体が発見されたという歴史事実を彷彿させる。1941年9月19日にドイツ軍がキエフ(キーウ)に侵攻し、キエフ市にあるバビ・ヤール峡谷で9月29日と30日の2日間で34000人のユダヤ人などが虐殺された。
ドイツ出身のユダヤ人哲学者ハンナ・アーレント(1906~1975年)は、第二次世界大戦が終結すると、シオニストの指導者たちは植民地主義を追求し、またシオニズムを「血(兵士)」と「土(領土)」によるナショナリズムと考えるようになったと主張したが、現在のイスラエルはナチス・ドイツと同様にまさに「血と土」によるナショナリズムを追求している。
過去に目を閉じる者は現在に対しても目を閉じる。
非人道的行為の記憶を拒むものは誰であれ、
再び同様な危険を冒すことになる
―リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー